第122話 二人の鬼神
文字数 2,600文字
「しかし、俺らが鬼神になるとは、夢にも思ってなかったな」
鬼神となった鬼塚と川島は、社長室でくつろいでいた。
「でも、奥さんは、お父様を亡くされて悲しんではったでしょうね」
川島は、夜叉の娘である鬼塚の妻に同情している。
「まあな。ただ夜叉さんは、千年以上も生きてはったから、妻もそれほど落ち込んでは無いみたいや」
鬼塚はアイコスを一口吸った。
「まあ、大往生ですね。それで、仇は取るんですか?」
「いや、もう良いやろ。俺は争いより人間たちとの共存を望んでるんや。夜叉さんの仇を討つと、相手の仲間が仇討ちに来るやろ、その繰り返しが永遠に続く事になる」
「まあ、そのような事が繰り返されて、良くも悪くも、現在の鬼の立場がありますからねえ」
「もうそういうのはうんざりなんや。お前も子供を持つ身として、わからんでもないやろ?」
鬼塚は、アイコスを吸い終えた。
「言っている事は、わかりますが。他の鬼神たちが、どう思うかですね」
鬼塚社長の意見は理解できるが、現実には難しいだろう。
「しかし、こうして2人とも鬼神になったんや。これからは上下関係なしで対等に付き合おうや」
「と言いますと?」
川島が聞き直した。
「その堅苦しい敬語は、もう使えわんで良いちゅうこっちゃ」
「今さらタメ口は無理ですよ」
「大丈夫やって。試しに日ごろ思ってる事を、思い切ってタメ口で言ってみてくれや」
「そこまで言うなら」
川島は少し考えてから
「鬼塚。お前って仕事量のワリに、給料もらい過ぎだよな」
と言ってみた。
ーーおおっ。川島、いきなり生活に直結するシビアな事を言ってきよったーー
「だいたい、お前は、社長室でアイコス吸いながらボオっとしてるだけで、会社の事なんもわかってないやろ」
ーーうっ、ほんまの事やから、何も言い返されへんーー
「ほんで、社長のクセに、なんで小遣いが月に三千円やねん」
ーーいや、それは別に良いやろーー
「お前、初めて会った時から、猫のウンコの臭いがするねん」
ーー猫のウンコって!ーー
「あと、お前が毎週読んでる『少年ジャンプ』な、実は『少年マガジン』やから」
ーーえっ、あれジャンプじゃなかったんか!ーー
「それに、お前が『ワンピース』と思って読んでるマンガ、本当は『はじめの一歩』や」
ーーええっ、『ワンピース』と思ってたら違うかったんや。なんかボクシングのシーンが多いと思ってたんやーー
「と、まあ、こういう感じですかね」
川島は平然とした表情で言った。
「なるほど、そういう感じになるんやな」
と言いながらも、大量の冷や汗が出て来た。
鬼塚は震える手でアイコスのスイッチを入れながら
「やっぱり、今まで通り敬語で話してくれ」
と、テンション低くく小声で言うのであった。
虎之助が一人でアメリカ村まで買い物に来てみると、いつも通りライアンとマーゴットにアンドロポプが、たむろしていた。
「なんだ、今日は一人か。あの偉そうな小僧はどうしたんだ?」
ライアンが虎之助に聞いて来た。
「小太郎は修行中でござる」
虎之助が答える。
「アンタが一人で来るのは、珍しいわね」
マーゴットも不思議そうな顔をしている。
「拙者もタマには、一人で来るでござる」
その様子を数人の男たちが見ていた、鬼である。
「羅刹様。DPSの小娘と国際電極保安協会のアメリカ支部の奴らが居ますよ」
羅刹と呼ばれた男は
「士会鬼様からDSPと国際電気保安協会は見つけ次第、抹殺するよう命令を受けている」
と言うと、右手を開いて虎之助に向けて
ドスッ!
手のひらからエネルギー弾を放った。
「おおっ、羅刹様の必殺技『真っ波』だ。あの小娘たち、跡形も無く吹き飛ぶぞ」
鬼たちは固唾を飲んで、虎之助の方を見る。
「拙者は、秋物のアウターを買いに来たでござる」
虎之助がライアン達に向かって、アメリカ村に来た目的を話していると
「うわっ、なんか飛んで来るぞ!凄いエネルギー波だ」
慌ててライアンがマーゴットの腕を掴み、逃げ出そうとした。
「大丈夫でござるよ」
虎之助は右手をエネルギー波に向けると、巨大な暗黒闘気を出した。
暗黒闘気は『真っ波』を飲み込んで、更に巨大になり、鬼たちに向かって行く。
ーーこれは、まずいーー
羅刹は、すぐさまエネルギー防御壁を作って鬼たちを守る。
ゴオォー!
爆音が響き、防御壁に暗黒闘気がぶつかった。
ーーこれほどの暗黒闘気を、いとも簡単に出せるとは、なんという娘だーー
羅刹は驚愕すると共に、なぜ士会鬼が自分に大阪に向かわせたのかが理解できた。
本来であれば、大阪は鬼神に成ったばかりの鬼塚と川島の担当地域である。
おそらく士会鬼は、義父である夜叉を亡くした鬼塚を気遣って、在阪の反鬼勢力の一掃を、武闘派の鬼神である自分に任せたのであろう。
防御壁で暗黒闘気を防ぎきった羅刹であるが、気が付くと、いつの間にか連れて来た5人の鬼が全員、首を斬られて倒れているではないか。
「次は、お主でござる」
小娘が目の前で、刀を向けていた。
「なるほど、素早いな」
だが、百戦錬磨の羅刹にとって、さして驚く程のことでは無い。
シュッ
虎之助の刀が羅刹の首を狙って来る。
ガシッ
羅刹は刀を左手で握って止めると、右手での手刀で虎之助の首を狙う。
ボキッ!
しかし、手刀を虎之助の真剣白羽取りで止められ、折られてしまった。
ーー予想より数倍強いなーー
折られた右手を治癒しながら
「今日は、まだ様子見だ。また、会おう」
羅刹は高く跳躍して、ビルの屋上に飛ぶと去って行った。
「なんだ今の奴は。えらい強そうだったな」
一部始終を見ていたライアンが、虎之助に声をかけ来た。
「あんなの、大したこと無いでござる。それよりアウターを買いに行くでござる」
と、虎之助は何故か、マーゴットの腕を引っ張りながら言った。
「なんで私の手を引っ張るのよ」
驚いたマーゴットが聞いた。
「拙者は服の流行がわからないので、お主がアウターを選ぶのでござる」
「えっ、私が?」
「そうでござる。拙者に似合うアウターを選ぶでござる」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ライアンも一緒に来て」
マーゴットはライアンに助けを求めた。
「仕方ない、俺たちも行くか」
ライアンがシアンドロポプを見ながら言った。
「俺も行くのかよ」
「当たり前だ。お前も、あの娘のショッピングにつきあうんだよ」
という具合に、虎之助は3人を引き連れて、秋物のアウターを買いに行くのであった。
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