第148話 虎之助との別れ
文字数 1,564文字
「狂四郎!」
と、小太郎は叫んだつもりであるが、何故か声出ない。
ーーあれッ、なんやおかしいで、声が出せないーー
小太郎が焦っていると
いきなり士会鬼の鋭い爪が目の前に迫っていた。
「危ない!小太郎」
ドカッ!
「ほうっ」
虎之助に突き飛ばされて、吹っ飛ばされた。
「チッ、邪魔をしおって」
小太郎を仕留めそこねた士会鬼が悔しがる。
「小太郎。目を覚ますでござる」
虎之助の声が聞こえる。
「姉さん」
虎之助の顔が触れそうになるほど近くにあり、コチラを覗き込んでいる。
「お主は士会鬼の幻術に、かけられていたでござる。危うく殺られるところだったでござる」
そうか、俺は幻術に掛けられてて、姉さんに助けられたんか。
「じゃ、加藤や武蔵はどこや?」
「どこやって言われても、まだ河原町だと思うでござる」
「ウソや、皆んな空間の裂け目を通って来てくれたはずや」
「それも幻術でござる。加藤と武蔵は、重症で来れるわけ無いでござる」
「そう言われれば、そうやな。それに、狂四郎が決意して、コッチに来てくれたクダリは、よく考えたら俺に見えるわけ無いもんな。全てが幻術やったんか。もう許さへんで」
怒った小太郎は両手から、大量の神気を士会鬼に向けて打ち込んだ。
シュバッ
「そんなモンは効かぬわ」
神気が直撃したが、ダメージは無いようだ。
「これで終わりじゃ」
そう言うと、士会鬼は大量の暗黒闘気を放出しながら、小太郎に向かって突進して来た。
ドガッ!
「うへ〜」
小太郎は、まともに士会鬼の突撃を受けて、海まで吹っ飛んで行く。
ドボン!
そのまま海の底まで沈んでいく小太郎。
「これで奴の方が魚の餌になったな」
士会鬼は、次に虎之助を狙って向かって来た。
その時、微かではあるが虎之助は、自分の精神の中に千代の存在があることに気付いた。
虎之助は暗黒剣を取り出すと、士会鬼に向けて構える。
「いくら闇の西王母でも、このワシには決して勝てぬぞ。ワシこそが闇の王でる」
士会鬼は相手が何者であろうと、自分を倒せる者など存在しないと信じている。
「そうではござらん。今はっきりと、理解したでござる。白鬼が造ろうとしていたのは闇の西王母などでは無い」
虎之助は士会鬼との戦いの中で、自分が何者なのかを確信した。
「なんじゃと?」
「拙者は、お主を倒せるでござる」
「なんじゃと」
「白鬼は、闇の西王母を造ると見せかけて、お主を葬り去る者を造ったのでござる」
「まさか、そんな」
怯えの表情を見せる士会鬼。
ーーバカな、このワシが恐怖しているだと。こんな事はあり得んーー
「消えされ、士会鬼」
虎之助は、持てる力の全てを込めて暗黒剣を振り下ろした。
虎之助から得体の知れない恐怖を感じて、後ろに下がる士会鬼。
「やめろ!」
生まれてから始めて感じる恐怖に怯えながら、士会鬼は叫んだ。
ズバッ!
暗黒剣が士会鬼を真っ二つに切り裂いた。
「いくら斬っても、ワシは死なんぞ」
なんとか士会鬼は強がってみせるが
「肉体を再生させているのは、お主の巨大な精神エネルギーでござる」
虎之助の精神エネルギーが、士会鬼の魂を捕らえると、一緒に天高く昇って行った。
「やめろ!離さないと貴様も死ぬぞ」
士会鬼の魂が叫ぶ。
しかし、虎之助は士会鬼の魂を、しっかり掴んで離さず
「拙者は死んでも、身体は死なないでござる」
両者の魂は、天に昇って完全に浄化されてしまった。
魂を抜かれた士会鬼の肉体は、もはや再生する事はなく、暗黒闘気と共に朽ち果てて行く。
そして、全ての精神エネルギーを出し尽くした虎之助も、膝をついて座り込み、動かなくなった。
死闘のあと、しばらく静寂が訪れていたが、魂が抜けたハズの虎之助の目が開いた。
「お兄様」
と言ったのは、本来の身体の持ち主である千代である。
千代は立ち上がると、虎之助が去って行った空を見上げた。
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