第103話 ダークエルフの逆襲
文字数 2,200文字
チェルノボーグと虎之助が消えた地面を見つめていた宇宙猿人ラーは
「あの2人、地中に消えましたけど、どうします?」
と、ゴリラ博士に、たずねた。
「そうだな、あの女の子は助けてやらんとな」
「わかりました、ゴリラ博士」
マーはUFOから機械を運び出すと、なにやら操作をし始めた。
「やったー、チェルノボーグを倒したぞ!」
一部始終を見ていたラスプーチンは、大喜びである。
「よし。じゃ、元の世界に戻るぞ」
ポリヤコフは、異世界への転生を解除し始めた。
ーーまだ戻るのは早いで、チェルノボーグと戦った娘が、まだ魔界に取り残されたままやんけーー
「ちょっと待てや、まだ」
鬼塚が何か言おうとしたが、そのまま解除されて4人は元の世界に戻ってしまった。
「やっぱりモスクワは落ち着くなぁ」
すがすがしい表情をしているラスプーチン。
「これで、俺の役目も終わったな。じゃ鬼塚とボルデ本山、ラスプーチンも元気でな」
ポリヤコフは、3人と別れて去って行く。
「いや、ちょっと待てや。あの娘は、どうするんや。チェルノボーグを倒してくれたんちゃうんか?」
意外にも鬼塚だけが、虎之助のことを気にかけている。
「あの娘のことは、あきらめよう。俺も報酬を払わなくて済むし」
チェルノボーグを倒した後、虎之助に対するラスプーチンの態度が急変しており、ためらう事なく見捨てるつもりのようだ。
「ラスプーチン、お前は悪いやっちゃな」
「まあな、俺より悪い奴は滅多にいないからな」
ラスプーチンは、少しも悪びれずに言った。
「ひどいな君、しかし」
などと話していると
「ギャー」
と、叫び声が聞こえた。
「なんや、今のは?」
「そこの角を曲がった道から聞こえたけど」
「それって、ポリヤコフが帰って行った道やんけ」
「気になるな。行ってみよう」
そう言うと、ボルデ本山は走って行く。
「面倒くさいな」
その後を、しぶしぶ鬼塚が付いて行った。
ボルデ本山が角を曲がると、血まみれのポリヤコフが倒れており、その横にダークエルフが立っている。
どうやら、ポリヤコフはダークエルフに襲われたようだ。
「拙者を見捨てた奴らは全員、もっとも残酷な方法で処刑するでござる」
ダークエルフは、復讐の怒りに燃えていた。
「ヤバい。あの娘、吾輩たちを殺す気だ」
あわてて、元の場所に戻ろうとしたが
「イテッ」
鬼塚がつまずいて転んでしまった。
「こんな所に、居たでござるか」
ダークエルフに気付かれてしまった。
「おのれら、皆殺しでござる!」
走って追いかけて来るダークエルフ。
「待てや。俺は君を待つように言おうとしたんや」
鬼塚は必死に弁明するが
「言い訳は聞かないでござる」
バキッ!
「うへ〜」
強烈なダークエルフの蹴りを喰らって、吹っ飛ばされてしまった。
「君は、どうやって魔界から出て来たんだ?」
ボルデ本山は、逃げながらダークエルフに聞いた。
「宇宙猿人が、ハイテクノロジーで救出してくれたでござる」
「アイツら、そんな高度な科学力があったのか」
逃げまどうボルデ本山。
「でも、なんであの娘、ダークエルフのままなんだ?」
そんな様子を、不思議そうにラスプーチンが眺めていた。
「おい、ラスプーチン。見てないで何とかするんだ」
ボルデ本山がラスプーチンに言った。
「しょうがないな。じゃ、この『ロシア門』で、その娘を大阪に戻すから、ここまで、おびき寄せてくれ」
ラスプーチンは、虎之助をロシアに連れて来た『ロシア門』を出して待っている。
「わかった」
ボルデ本山は、全速力でロシア門に向かって走り出す。
「待つでござる!おのれら皆殺しにしてから、ロシア全土を破壊するでござる」
物騒な台詞を言いながら、追いかけて来るダークエルフ。
ボルデ本山は『ロシア門』の前で、わざと止まった。
「やっと観念したでござるな、ブチ殺すでござる!」
ボルデ本山に向かって、猛スピードで突っ込むダークエルフ。
もう少し、という所でボルデ本山が、スッと避けた。
「うあぁ、何でござるか、これは」
勢いが付いていたダークエルフは止まる事ができず『ロシア門』に突っ込んで行く。
「おのれ。拙者、一人では行かんでござる、お主も道連れでござる」
ダークエルフは手を伸ばしてボルデ本山の足を掴む。
「うわっ、離せ」
ボルデ本山も『ロシア門』に引きずり込まれて行く。
「大阪に行くのは嫌だ〜」
ボルデ本山の叫び声が遠のいて行く。
バタン
『ロシア門』の閉まる音がした。
「ボルデ本山には気の毒だが、なんとか上手くいった」
ラスプーチンは笑みを浮かべた。
鬼塚は、よろけながらも倒れているポリヤコフに駆け寄ると
「おい、大丈夫か?」
と、声をかける。
「ううっ、いきなりダークエルフに襲われた」
ポリヤコフは、まだ息があるようだ。
「とりあえず、コイツを病院に運ばないと」
鬼塚はポリヤコフを助けようとしているが、自身も、ダークエルフにやられたダメージがある。
「そんな奴は、ほっとけ」
後方から、ラスプーチンの非情な声が聞こえたが、鬼塚は足を引きずりながらも、病院に向かって歩き始めた。
その頃、大阪では。
ダークエルフから元の姿に戻った虎之助は、商店街に立っていた。
「なぜか、ロシアに行って、ダークエルフに変身していた夢を見ていたでござる」
と、目をこすりながら、つぶやく。
ーーそれは夢じゃ無く現実にあった事だーー
すぐ後ろで、ボルデ本山が虎之助を見つめていた。
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