第92話 ムーヤンとのお別れ
文字数 2,194文字
自ら張った闇の結界の中で、虎之助と川島が死闘を繰りひろげていた。
「この娘、やはり強い」
スピードや技のキレなどは虎之助の方が上回っており、じょじょに川島が押されて来ている。
そこに、思わぬ助っ人が現れた。
猫のムーヤンである。
「小娘、死ぬのだニャ」
ーー霊体になってから15年間、こんな時の為に修行して編み出した必殺の技を受けてみろ、通常の人間ならば骨も残らない威力の攻撃だニャーー
絶対の自信を持って、虎之助に跳びかかるムーヤン。
「猫の霊が攻撃して来るでござる。コイツも鬼の仲間か」
自分に向かって来るムーヤンの姿を見た虎之助は、岩法師からもらった数珠を拳に巻くと
「成仏しろ、化け猫」
と、右ストレートをムーヤンの顔面に打ち込む。
バキッ!
虎之助の右ストレートが、ムーヤンの顔面に直撃した。
「フニャ〜ン」
ムーヤンは鬼塚の足元まで吹っ飛ばされてしまった。
「ムーヤン大丈夫か!」
鬼塚が心配して、ムーヤンを抱きかかえる。
「あの娘は強すぎるニャ。鬼塚、あとは頼んだニャ」
「なに言うてんねんムーヤン、しっかりするんや。俺じゃ無理や」
「鬼塚なら大丈夫。昔から『俺は鬼神王になる!』って言ってたニャ」
「いや、一度も言った事ないけど」
「君なら、きっと鬼神王になれるニャ」
ムーヤンはファっと宙に浮き始めた。
「ムーヤン!どこへ行くんや」
「最後に君に会えて良かった。僕はもう成仏するニャ、天国から君が鬼神王になるのを見守っているニャ」
そう言うと、ムーヤンは空高く飛んで行き、やがて見えなくなった。
「俺も会えて嬉しかったで、ムーヤン。ただし、鬼神王に成るつもりは、まったくないけどな」
ムーヤンを見送ると、鬼塚は何かがフッ切れた様子で、もう怯える事はなく、目の前の娘に向かって行った。
ーー死んでもムーヤンの仇を取ったるでぇーー
「小娘、覚悟しろや!」
渾身の力を込めた左ストレートを虎之助に撃ちこむ。
鬼塚の人生で最大最強のパンチであった。
ムーヤンの仇を討つために、鬼塚は持てる全てのパワーを拳に込める。
しかし、同時に虎之助も必殺の右ストレートを打って来た。
メキッ!
一瞬、相打ちに見えたが、ズルズルっと鬼塚が崩れ落ち倒れた。
「これはっ、クッ、クロスカウンター」
虎之助がくり出した、ボクシングのハイテクニックに驚く川島。
「あとは、お主だけでござる」
鬼塚が倒れ、川島ひとりになってしまった。
しかし、ボスである鬼塚が倒れたのにもかかわらず、川島は特に動揺する事もなく、平然としている。
「ふん、もとより社長には、これっぽっちも期待しておらぬわ。いくぞ小娘!」
という訳で、虎之助と川島の死闘は続くのである。
大阪DSPの宿舎では、みんなで昼食を摂っていた。
「虎之助は、まだ帰って来んな」
牡蠣フライ定食を食べながら、加藤が心配そうに言った。
「姉さんは傷心中やから、なんか気晴らしでもしてはるんやろ」
小太郎は、さほど心配はしていない。
「まあ、虎之助の事だから、そのうち帰って来るでしょう」
岩法師も慣れているせいか、楽観的である。
「それよりも、なんで俺がインスタントラーメンなのに、加藤さんは牡蠣フライ定食なんだ」
狂四郎は虎之助の事より、食事に差がある事が気になるようだ。
本日の狂四郎の昼食は、チキンラーメンであった。
「あっ、そう言われてみれば、俺の昼食は梅干しご飯やんけ!どういう事や加藤さん。事と次第によっては承知しまへんで」
狂四郎の発言で、自分のオカズが梅干し1つだけである事に気付いた小太郎が、怒り出した。
「ワシは顧問で老人だから、優遇されて当たり前なんじゃボケ!」
加藤も負けずに怒鳴るように言った。
「なんやと、ジジイこそ梅干し食っとけや!」
小太郎がブチ切れた。
「なんだ、その口のきき方は!ワシは顧問じゃぞ」
加藤も怒り始めている。
「飯のことに関しては顧問もへったくれも無いんや。表に出ろジジイ!」
小太郎は立ち上がると、庭先を指さした。
「ほう、このワシとやる気か」
加藤も席を立つ。
「俺も、今回ばかりは小太郎につくぞ」
狂四郎も立ち上がった。加藤に対して、かなり怒っているようだ。
3人は庭に出ると、各自武器を持って構える。
「この糞ジジイ、ぶっ殺してやる。狂四郎ぬかるなよ」
「わかってる。ジジイ、殺してやるから念仏でも唱えてろ」
小太郎と狂四郎は殺気立っている。
「お前らみたいなヒヨッコが何人おろうと、ワシの敵ではないわ。2人まとめて、あの世に送ってやる」
百戦錬磨の加藤には、2対1でも余裕が見受けられる。
「くたばれ、社会のゴミが!」
小太郎が加藤に向けて剣を振り下ろす。
「うるせえ!この虫けら」
加藤も刀で応戦する。
「早く死ね、老害!」
狂四郎が後ろから加藤に斬りかかった。
「お前らこそ死にさらせ、ウジ虫どもが」
加藤は狂四郎の攻撃を避けて高く跳躍すると、2人に手裏剣を投げつける。
宿舎の庭先で、加藤VS小太郎と狂四郎の死闘が始まった。
「岩法師のおじちゃん、あの人たち大丈夫なの?」
左近が心配そうに岩法師に尋ねる。
「大丈夫だろ。ココではこんな事は日常茶飯事だ、お前も慣れろ」
食事を続けながら、岩法師は冷静に答えた。
「そうなんだ」
左近も3人の事は、あまり考えないようにして、昼食を食べ始める。
という具合に、相変わらず味方同士で殺し合いを始めるDSPのメンバーであった。
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