第121話 西王母と柴犬
文字数 2,718文字
「やっと見つけたわよ。いつまで、こんな所にいるのよ」
冥界派を喰らって冥界に落ちていたポセイドンの前に、ヘスティアが迎えに来た。
「ああ、ヘスティアか。ちょうど良い、これを見てくれ」
ポセイドンがヘスティアに赤子を差し出した。
「なによ、この赤ちゃん?」
「冥界に来てから、もしかしたらと思い探してたんだが、この赤子がゼウスだ」
「この子がゼウスの生まれ変わりなの?」
「そうだ。この子が成長すれば、ゼウスが復活するハズだ」
「別にアイツは、もういらないんじゃない。アホでスケベだし」
「冷たいな。俺たちの兄弟だろ」
などと、2人が話していると
「そこの、ズッコケ3人組。やっぱりここに居たわね」
なんと、西王母も冥界まで来ていた。
「西王母さん、どうして冥界に?」
ヘスティアが驚いて尋ねる。
「コイツらを渡しに来たのよ」
ドサッ
と言って、無造作に瀕死のハーデースをヘスティアの前に放り投げた。
「ハーデース!生きてたのね」
死にかけてはいるが、まだ生きているハーデースを見て、ヘスティアは喜んでいる。
「アンタ、回復系の魔法がつかえるんでしょ。治してあげなさい」
「わかったわ『アラビン・ドビンデブマッチョ』」
ヘスティアが呪文を唱えると、ハーデースの怪我が少しづつ治っていく。
「ありがとう、西王母さん」
ヘスティアは、感謝してお礼を言った。
「礼を言うのは、まだ早いわよ。アンタたちには、この子の面倒を、みなくてはいけないのよ」
西王母の後ろから、一人の少年が現れた。
「その子は誰です?」
ポセイドンが聞いた。
「この子は白鬼。あなた達からしたらクロノスよ」
「この子がクロノス!」
「私の術で、瘴気と邪悪エネルギーを取り除いたら、こうなったの。あなた達は、これからクロノスと和解して、仲良く平和に暮らすのよ」
「ええっ!それは、ちょっと」
ポセイドンとヘスティアは、揃って拒んでいる。
「断れば、ハーデースを元のように半殺しにして、クロノスも以前の邪悪な白鬼に戻すわよ」
「ううっ」
確かに、ハーデースを助け、クロノスから邪悪エネルギーを取り去ってくれた事は大きい。
今さら、元に戻されたら大変だ。それに、今のクロノスなら害は無さそうである。
「わかりました。我々が、この子の面倒をみる事にします」
しぶしぶポセイドンは了承した。
「わかれば良いのよ。じゃ、私は帰るわ。行きましょう柴咲コウ」
西王母は、柴犬の柴咲コウと一緒に帰ろうとした。
ーー西王母さんは、ワガママで変な所もあるが、平和を望む聖女だったんだなーー
と、ポセイドンが感心していると
「ちょっと、なにグズってるの。帰るわよ」
柴咲コウが、冥界から去るのを嫌がっている。
しばらく、冥界でハーデースに地獄の番犬として飼われていたので、冥界が気にっているようだ。
「冥界に残りたいの?」
西王母が柴咲コウに聞いてみた。
「ワン」
柴咲コウが、うなずく。
やはり、残りたいらしい。
「生意気言うなクソ犬!西王母チョップ!」
ボコッ
「キャヒン!」
西王母は、チョップで柴咲コウを失神さると、抱えて持って帰ろうとしている。
「西王母さん、その犬は冥界に置いて行った方が良いと思いますけど」
柴犬を心配したヘスティアが止めに入った。
「ふざけんな!私は子供の頃から犬を飼うのが夢だったのよ!」
と、怒鳴ると、西王母は柴咲コウを連れて行ってしまった。
ポセイドンとヘスティアは
「平和を愛する聖女が動物を虐待してる」
と、柴犬に同情するのであった。
「今まで、君らに冷たくしていたのには訳がある」
DSPの宿舎では、加藤が狂四郎と小太郎に説明していた。
「どんな訳だよ、適当なこと言ってたらブッ殺すぞ」
「そうや。お前を殺すことに関しては、一片の迷いもないで」
狂四郎と小太郎は、まだ怒っている。
「落ち着け、ヒヨっ子ども。ワシは、君らに大いなる可能性を見たからこそ、厳しくしたんだ。それが冷たく感じたのかもしれんが、君ら2人は、とてつもなく強くなる」
加藤は説明を続けているが
「ちょっと何言ってるか、わからんから、とりあえずブッ殺す!」
と、小太郎と狂四郎が加藤に襲いかかった。
「くそっ、このアホども。返り討ちにしてくれるわ」
加藤も仕方なく反撃体制をとる。
「岩法師さん、良いんスか?あの3人、放っておいて」
呆れた武蔵が岩法師に尋ねた。
「そうだな。そろそろ止めるとするか」
岩法師は立ち上がって、スタスタと歩いて行き、後ろから右手で小太郎、左手で狂四郎の首を、がっちりと掴むと
「お前ら、もういい加減にしろ!首の骨を折られたくなければ、ちゃんと加藤さんの話を聞くんだ」
と、怒鳴った。
「うわっ、わかりました!」
「わかったから、離してぇや」
怪力の岩法師に首のを掴まれて、さすがに2人は大人しくなった。
「じゃ、しっかりと話を聞くんだ」
岩法師が手を離すと、小太郎と狂四郎は真面目に加藤の話を聞き始めた。
「ワシが鍛えたら、君らは凄まじく強くなる。さっそく、今日から修行するぞ」
加藤は、今すぐに2人を鍛える気である。
「いや、悪いけど。俺は今から、桜田さんとデートの約束があるんで」
と言いって、狂四郎は出かけて行ってしまった。
「狂四郎は桜田刑事とデートか、仕方ない。小太郎、お前はデート相手が居ないだろうから、さっそく始めるぞ」
加藤は狂四郎を諦めて、とりあえず小太郎だけでも鍛える事にした。
「いや、実は俺もデートなんや」
「嘘つけ、お前は恋人が居ないだろう」
小太郎は加藤に突っ込まれた。
「本当や、デートの約束があるんや」
「誰とだ?」
ーーくそっ。そんな約束はしてへんけど、ここは姉さんに助けてもらおうーー
「姉さんとや」
小太郎は、とりあえず嘘を付いて逃げようとした。
「本当か虎之助?」
加藤が虎之助に確認すと
「そんな約束は、してないでござる」
虎之助は正直に答えた。
ーーしもた、姉さんは馬鹿やから、バカ正直に答えるんやった。やっぱり馬鹿は使えんわ。しょうがあらへん、出費は痛いが、美味しい食事に連れて行くって言ったら、姉さんは口裏を合わせてくれるやろうーー
「しましたやん。俺が焼き肉を奢るって、約束しましたやん」
小太郎は、食べ物で虎之助を釣ろうとした。
「あっ、そういえば、約束していたでござる」
あっさりと買収される虎之助。
「本当だろうな虎之助?」
疑いの眼差しで虎之助を見る加藤。
「約束したでござる。小太郎とデートの約束をしたでござる」
虎之助は、繰り返して言った。
「うっ、本当なら仕方ない。だが、明日は必ず修行をするぞ」
という訳で、ひとまず加藤からの修行から逃れた小太郎と狂四郎であったが、翌日からは鬼のように、しごかれるのであった。
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