第28話 安倍顧問の死
文字数 3,347文字
タヌキの式神に案内されて、虎之助と岩法師は、安倍顧問が死亡したと思われる現場にやって来た。
「ここでござるな」
あたり一面が焼かれており、まだ焦げ臭い。
「凄まじい高熱の炎に焼かれたようだな。これほどの炎を出せるのは竜の式神であろう」
岩法師は、焦げた地面を調べている。
「どうかしたでござるか?」
タヌキが何か見つけたようだ。
「これは、安倍顧問の拳銃だ」
かなり炎にやられて劣化しているが、拳銃の原型は留めている。
「現場は、ここで間違いないな。鑑識を呼ぼう」
岩法師は、スマホを取り出して警察署に連絡し始めた。
「これほど高熱の炎が出せる竜でござるか」
虎之助は辺りの様子を観察している。
「拙僧の予想では、おそらく応竜だな、古代中国の最強レベルの竜だ。今の安倍一族でも呼び出せる者は居ないだろう」
「では、やはり、阿部仲麻呂でござるか?」
「それ以外は考えられぬ」
しばらくすると、鑑識の車が到着した。
安倍顧問の葬式が終わった後も、DSPの宿舎は暗く沈んでいた。
そんな宿舎に、2人の男が訪ねて来た。
一人は、お葬式にも出席していた、安倍顧問の末の弟である安倍康晴である。
長身でスーツの似合う、モデルのようなイケメンである。
彼は、連れの男を紹介した。
「亡くなった兄の代わりに、大阪DSPの顧問を務める事になった、鬼一君です」
「鬼一法眼です、よろしく」
鬼一は、礼儀正しく頭を下げて丁寧な挨拶を行う。
安倍康晴とは違い、小柄で華奢な体格であり、女性と間違われそうな中性的な顔立ちをしている。
「よろしく、お願いします」
桜田刑事と転生者たちは、挨拶を返すが元気が無い。
「鬼一君は陰陽師なんです。今まで、東京DSPのリーダー格であったので、頼りになると思います」
「鬼一さんも転生者なんですか?」
イケメンの2人に、桜田刑事が興味を持ったようだ。
「そうです。転生前は平安時代に居ました」
「えらい昔でんなぁ」
小太郎は感心している。
「鬼一君は、京八流の剣豪でもあるんだ」
安倍康晴は、他のメンバーが安心できるように鬼一の能力をアピールしている。
「実は、俺も剣豪なんですよ、今度、試合をやりましょう」
小太郎は、鬼一と張り合おうとしている。
「私も、しばらく大阪に居るつもりなので、よろしくお願いします」
安倍康晴は桜田刑事に挨拶をすると、小太郎はスルーした。
「やはり、お兄様の件ですか?」
気になっていた事を、桜田刑事がたずねた。
「そうです。京都本部からも、しばらく大阪に留まる許可を頂きました」
桜田刑事の予想通り、安倍康晴は兄の仇を討つつもりなのだろう。
挨拶を終えた安倍康晴は、中庭に出ると大量の御札に念を込め宙に撒き始めた。
御札は、さまざまな鳥の式神へと変化して飛び去って行く。
「情報収集ですか」
鬼一がたずねた。
「岩法師と鑑識からの報告では、兄を殺したのは、おそらく阿倍仲麻呂だ。とにかく情報が欲しい、式神が何かつかんでくれれば良いのだが」
「私も、やはり阿部仲麻呂と消えた左近が気になります。私は、2人の情報を探ってみます」
そう言うと、鬼一は大量のヤモリの式神を放った。
日本テクノロジーコーポレーションの社長室に、霊気が若林を連れてやって来た。
「霊気姉さん、どうしたんでっか?岡山に居てはるハズでは?」
突然の霊気の訪問に、社長の鬼塚は驚いた。
「若林が殺されかけてたから、助けてあげたのよ」
「えっ、じゃ、あの左近っていう奴に、若林が負けたんでっか?」
「社長、あいつはもう左近じゃありません。阿部仲麻呂と名のっていました」
若林が説明する。
「それ誰や?」
「鬼塚。あんた、なんにも知らへんなぁ。阿部仲麻呂っていうたら、平安時代の日本に陰陽道を持ち込んだ男や」
「その男が、自分で左近と融合したって言ってました。僕より先に戦っていたDSPの安倍という男は、そいつに殺されてしまいました」
「安倍って確か、大阪DSPの責任者やんけ」
「その安倍と2人がかりでも、完敗でした。あの、阿部仲麻呂という男は強すぎます」
「そんなに強いんか?」
鬼塚は困った顔をした。
「実は、黒瀬もDSPの小娘にリベンジに行って、返り討ちにあったんや」
「ああ、あの娘はムッチャ強いわよ。私も一度負けたもの」
「誰か、その2人を殺ってくれる奴おれへんかなぁ。ワシら数ヶ月前までは、平穏に暮らしとってんけどなぁ」
「あんた、大阪鬼連合団体のトップでしょう!なに情けない事いってんのよ!」
「そう言われましても。できれば使いたくなかったんやが、処刑鬼隊を出動させまひょう」
「なんやの、その処刑鬼隊って?」
「俺と川島が魔界と地獄から名のある鬼をスカウトして、最強の部隊を編成したんですわ」
「へえ、アンタら、やる時はやるねんな」
「まかせといて下さい。もうDSPと『国際電器保安協会』には、デカい面させませんよって」
と言いながら、鬼塚は内線で川島を呼び出した。
「霊気姉さんが来てはるから、今から処刑鬼隊を連れて来てくれ」
しばらくすると、川島が6人の男を連れて来た。
「お久しぶりです霊気さん。我々が編成した、処刑鬼隊を紹介します」
川島は連れて来た男たちを並ばせると
「まずは阿久良王と温羅です」
体格の良い、いかにも強そうな2人を紹介した。
「うわぁ、強そうやな」
霊気が喜んでいる。
「次は風鬼」
標準体型の鬼である。
「風鬼は風を操ることが出来ます」
「そんな特殊能力があるんや」
霊気は感心している。
「次は水鬼です、彼は水を操ります」
痩せた鬼である。
「なるほど、水をねぇ」
「その次は穏形鬼です。彼は気配を消すことが出来ます」
いかにも影が薄そうな男である。
「なんか幸が薄そうやな」
「姉さんほどでは無いですよ」
鬼塚に突っ込まれた。
「最後は三吉鬼や。こいつは無類の酒好きや」
三吉鬼は小さいオッサンである。
「そいつとは、気が合いそうやわ」
「たぶん、霊気さんと合うと思います」
霊気は、穏形鬼と三吉鬼の腕を掴み
「じゃ、コイツとコイツは、私が貰って行くわ」
と、勝手につれて行こうとした。
「いや、つれて行かれたら困りますよ、霊気さん」
川島が止めるが
「ええやないの、処刑鬼隊の別働隊として、私が預かるわ」
霊気は、かまわず連れて行こうとする。
「ちょっと、社長。止めて下さいよ」
「まあ、エエんちゃう。別働隊は霊気姉さんに任せようや」
「でも、あの3人じゃ、居酒屋かパチンコ屋に入り浸るだけですよ」
川島の心配を他所に、霊気は強引に2人を連れて行ってしまった。
「良いんですか、処刑鬼隊の戦力が分散されましたけど」
霊気たちが出て行った後で、川島が不機嫌そうに言った。
「別に良いねん。あの2人は、なんかこう華が無いし」
鬼塚は気にしていない様子である。
「いや、処刑鬼隊に、華はいらんでしょう」
「でも、あった方が良いやんか」
「まあ、よろしいわ。それで、この若林はどうします?」
川島が若林を指さす。
「そうか、お前、まだ居ったんか?」
「ずっと居ましたけど」
居たことを忘れられて、若林は少し不貞腐れている。
「お前は、左近に2連敗したから、死刑や」
「ええっ!マジですか?」
当然であるが、驚く若林。
「ギロチンか首吊りか、どっちがええ?」
「どっちも嫌です。というか、社内で死刑って、おかしくないですか?」
「別に、おかしくないで。今日び、どこの会社でも死刑制度を導入しとるし」
「そんな訳ないでしょう!社長。アンタは阿呆や!」
さすがに、若林が怒った。
「アホは、お前じゃ!」
鬼塚も怒り返す。
「アホ言う者が、アホじゃ!」
「ちょっと、2人とも小学生レベルの喧嘩は、止めて下さい」
さすがに、川島が止に入る。
「ほんでも、このガキが俺のことアホって言うから」
「社長は、もともとアホなんですから、別に良いじゃないですか」
川島が説得する。
「いや、俺も、中三ぐらいまでは、普通やってんけどな」
「高校に入ってからアホに、なったんですか?」
「中三の冬休みに、六甲山に蝉取りに行ってからやな」
「冬に、蝉取りに行く時点で、すでにアホですけど」
「今、考えたら自分でも、真冬の六甲山に蝉取りに行くのは、どうかと思うわ」
という具合に、若林の処分は、うやむやになり、処刑鬼隊が結成されたのであった。
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