第48話 目覚めた虎之助でござる
文字数 2,325文字
小太郎が駆け寄り、体を強く揺するが、虎之助は全く起きる様子がない。
ーーこうなったら仕方あらへんーー
小太郎は腹をくくって
「ええかげんに起きなはれ!」
バッチーン!
と、虎之助の頬を、おもいっきりビンタした。
「痛い。でござる!」
頬をさすりながら、やっと虎之助は起き上がった。
「拙者を、ビンタしたのは誰でござる!」
かなり痛かったようで、虎之助は、そうとう怒っている。
「あいつでっせ、姉さん」
怒っている虎之助に、ちょっとビビリながらも小太郎はアポロンを指さした。
「お前を、殺すでござる」
ブチ切れた虎之助は、真っ直ぐアポロンに向かって行く。
「俺じゃない、あのガキだ」
アポロンは、誤解を解こうとするが
「言い訳するなでござる!『次元打震』フルパワー!」
「うおっ!」
バキバキバキッ!
アポロンの居た空間が一瞬で消え去った。
空間ごと攻撃する、防御不可の恐ろしい技である。
「殺ったか」
呟く小太郎。
「いや、危なかった。しかし、この破壊力は異常だぞ。この少女は何者だ、化物か?」
とっさに跳躍して難を逃れたアポロンだが、虎之助の攻撃力には驚愕している。
「クソっ、生きてたんか。死んでもうてたら良かったのに」
逃れたアポロンを見て、悔しがる小太郎。
「拙者は、化物じゃないでござる!」
化物と言われて、怒りが増した虎之助の両手が、ドス黒く変わり大量の暗黒闘気が放たれた。
「げっ、なんだこの闘気は!これほどの暗黒闘気を出せる者は、魔界にも居ないぞ」
アポロンは暗黒闘気を、得意の体術で辛うじてかわし、攻撃に移ろうとした
が、すでに遅く、虎之助の手刀がアポロンの胸を貫いていた。
「ゲボっ。ばっ馬鹿な、攻撃が全く見えなかった。なんて娘だ」
アポロンは、血を吐きながら膝をつく。
そんなアポロンを、虎之助は平然と見下ろしている。
「とどめを刺すでござる」
「待てい!確かに君は凄まじく強い。だが、一つだけ言っておきたい事がある」
虎之助の強さに圧倒されたアポロンであるが、なにかを伝えたいようだ。
「何でござるか?」
「君にビンタしたのは、俺じゃなくてあの少年だ。では、また会おう」
そう言い残して、アポロンはスッと消えた。
「クソっ、逃げられてもうた」
悔しがる小太郎に
「拙者にビンタしたのは、小太郎だったのでござるね」
と、虎之助が怒りながら迫って来る。
「いや、ちゃいますがな。姉さんが起きへんから、仕方なくでんがな」
あとさずりしながら、経緯を説明する小太郎。
「言い訳は聞かないでござる!ブッ殺すでござる」
ーーマズイ、殺られるーー
小太郎は、身の危険を感じてダッシュで逃げ出す。
「待つでござる。あっ、そういえば朝から何も食べてなかったでござる。くフッ」
パタっ
追いかけていた虎之助の方が、あまりにもの空腹で倒れてしまった。
「あっ、姉さんがガス欠や。そや、これを持って来てたんや」
小太郎は、虎之助の朝食用に作っていたサンドイッチを取り出すと、戻って来て、倒れている虎之助に食べさせた。
「モグモグ、美味しいでござる」
倒れながらも美味しそうに、虎之助はサンドイッチを平らげる。
「よかった。これで安心ですわ」
万事解決したと思い、安堵している小太郎であったが。
「元気になったので、小太郎。お主を殺すでござる」
再び虎之助は、小太郎に襲いかかって来た。
「しもた!サンドイッチなんか与えんと、放っておくんやった」
再び、ダッシュで逃げる小太郎。
「拙者にビンタした奴は、誰であろうと、生かしておかないでござる」
虎之助は大きく跳躍して、小太郎の背中にしがみつく。
「うわっ!捕まってもうた」
ーーヤバイ、殺される!ーー
小太郎は半殺しを覚悟した。が、特に何も起こらない。
「あれっ、姉さん?」
後ろを見てみると、虎之助は背中に、しがみついたままま眠っていた。
ーー寝てはるわ。アポロンに大技を連発したんで、カロリーを消費し過ぎたんやなーー
「サンドイッチもっと食べたいでござる……ムニャムニャ」
寝言を言いながら爆睡している虎之助を、おんぶしながらDSPの仲間を探していると。
「小太郎。お前も来ていたのか」
と、背後から狂四郎の声がした。
振り向くと、鬼一と岩法師も居る。みんな何とか無事なようだ。
「虎之助は、寝ているのか?」
背負われている虎之助を見て、鬼一が尋ねてきた。
「アポロンっていう奴を倒したんで、疲れはったんやと思います」
小太郎が経緯を説明すると
「虎之助が、あのアポロンを倒したのか?」
驚いて鬼一は、聞き直した。
「ええ、姉さんの圧勝でした。アポロンは逃げて行ったんですが、姉さんも空腹で、ガス欠になってもうたんですわ」
ーーあのアポロンが逃げ出すとは、この娘とんでもない力を持っている。ただの転生者ではないなーー
鬼一は、虎之助の強さに疑問を抱いた。
「虎之助に、なにか食物を買って帰ってやろう」
「そうですね。今回はAカップ娘に、助けられたみたいですから」
岩法師と狂四郎は、素直に虎之助を労っている。
ーーこの2人は、お人好しだから、これっぽっちも疑問に思っていないようだが、虎之助には何か秘密があるはずだーー
どうしても鬼一は、虎之助に対して疑問を抱かずには、おれないのであった。
鬼一たちが帰った後、アポロンの太陽エネルギーでダメージを負った処刑鬼隊のメンバーは、徐々に回復しつつあった。
「みんな、早く立ちなさいよ!」
いち早く再生したグッピーちゃんが、怒鳴っている。
「ちょっと待って下さいよ」
他の鬼達は、グッピーちゃんより再生に時間が掛かるようで、まだ歩ける状態では無い。
ーー阿呆アポロンめ、覚えておきなさいよ。必ず後悔させてやるーー
と、グッピーちゃんは復讐に燃えていた。
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