第74話 虎之助の属性
文字数 2,316文字
羅漢鬼は、ゆっくりと手裏剣を抜くと
「こんな、ちゃちな毒で俺が倒せるとでも思ったか」
と言い、手裏剣を投げ捨てる。
「あれっ、おかしいな。お前はもう死んでいるハズでござる」
それを見て、不思議がる虎之助。
「俺は全然、平気だけど」
羅漢鬼には、まったくダメージが無さそうだ。
「早く死ぬでござる」
怒った虎之助が羅漢鬼を殴りつける。
ポカポカ
「こらっ、止めろ小娘」
ボコッボコッ
羅漢鬼も殴り返す。
「今すぐ死ぬでござる」
羅漢鬼が死なないので、むやみに殴り続ける虎之助。
「おい、虎之助。そんな攻撃じゃ、この鬼は死なないと思うぞ」
と、鬼一が止めに入った。
「でも、この鬼はムカつくでござる」
死ぬと思っていた羅漢鬼がノーダメージなので、虎之助の怒りはおさまらない。
「虎之助、怒ってむやみに殴っても、そいつは死なないぞ」
鬼一が諭すように言った。
「もう、お前ら、うっとおしいわ」
あきれ気味であった羅漢鬼も、いい加減にウザくなり怒り出した。
「お前らは、下がってろ」
羅漢鬼は他の鬼たちを後方に退避させて、空手のような構えをとる。
「秘技『羅漢波動炎』」
全身から炎が吹き出し、炎に包まれた羅漢鬼から火の塊が無数に飛んで来る。
「これはヤバいぞ、繁華街でこんな技を出すなんて、下手すりゃ大惨事になる」
鬼一は、飛んで来る炎を刀で払い落としているが、自分の身を守るので精一杯のようだ。
周囲の建物が燃えだし、このままでは、辺りは火の海になるであろう。
「虎之助、何とか出来ないか?」
虎之助は少し考えてから
「拙者の神気で火を消すでござる」
虎之助は、全身から気を放った。
すると、ドス黒い気が広範囲に広がり、あたりを包み込んでいく。
そして、徐々に燃えている建物の炎が小さくなり消えていった。
「消火してくれるのは有り難いが、なんで、お前の気はドス黒いんだ」
鬼一が、日頃から思っていた疑問を口に出した。
「火を消してるんだから、文句を言うな。ついでに、あの鬼の火も消すでござる」
虎之助は両手を羅漢鬼に向けると、大量の暗黒闘気を放つ。
シュン!
暗黒闘気に包まれた羅漢鬼の炎が、一瞬で消え去った。
「うおぉ!俺の技を破りやがって、ブッ殺す!」
元々が鬼であるが、さらに鬼のような形相で、羅漢鬼は虎之助に向かって突進して来た。
「うわぁ、ムッチャ恐い顔でござる」
慌てて、虎之助が逃げ出す。
「待て虎之助。逃げないで戦うんだ」
鬼一は逃げる虎之助の手を掴んだ。
「離すでござる」
逃げたがる虎之助
「いや、離さん」
揉めているうちに、鬼一が虎之助の手を強く引っ張り過ぎて、2人はぶつかり、正面から抱き合う格好となってしまった。
ーーうっ、虎之助、思ったより華奢で柔らかい。それに何だか良い香りがするーー
鬼一の顔が少し赤くなった。
ーーうわっ、この男、女々しい顔をしてる割には、筋肉質で引き締まった身体をしているでござるーー
虎之助も少し赤くなった。
2人は抱き合いながら、赤くなっている。
そこには、宇宙の神秘と言われている『愛』が生まれようとしていた。
そんな2人を見ていた羅漢鬼は
「あの、君たち。今は戦闘中なんだけど、そうゆう事は、後でやってくれませんか」
と、注意を促した。
ーーはっ!コイツと、こんな事をしている場合じゃ無いーー
2人は、お互いにパッと離れた。
生まれかけていた『愛』は、儚く消え去って行く。
「京八流『斬首剣』」
我に返った鬼一が、羅漢鬼の首を狙って剣を振る。
「なんの『羅漢氷結』」
パリン!
羅漢鬼は両手から吹雪を出して、鬼一の刀を凍りつかせる。
パキン!
余りのもの低温に耐えきれず、鬼一の刀は砕け散ってしまった。
「こやつ、火と氷と2つの属性を持っているのか!」
驚く鬼一。
「属性って、何でござるか?」
虎之助は属性の事を知らないようだ。
「属性っていうのは、もともと個人が持っている適正の物質だ。例えば火・水・木・土・氷などで、本来は一人で一つのハズなんだが、奴は2つ持っている」
「2つだけでは無いぞ、喰らえ『羅漢水龍』」
羅漢鬼の足元の地面が割れて、激しい勢いで水流が鬼一と虎之助を襲う。
「危ない!」
鬼一は虎之助を突き飛ばし、2人ともなんとか水流から逃れる事ができた。
が、仰向けに倒れた虎之助の上に、鬼一が乗りかかる格好になってしまった。
鬼一からは自然と、虎之助の顔が間近に見える。
ーーこうして見ると、この娘、もの凄く可愛らしい顔をしているーー
鬼一は真っ赤になった。
虎之助からも、鬼一の顔が近くで見える。
ーー近くで見ると、鬼一は、思っていたより良い男でござるーー
虎之助も真っ赤になった。
今まさに、2人は、青春の象徴である『恋』に落ちようとしていた。
「だから、さっきも言ったけど、今は戦闘中なんだよね。そういうのは後でやってもらえませんか」
羅漢鬼が、ウザそうに注意する。
ーーはっ!そうだった、このアホ娘とこんな事をしてる場合じゃ無いーー
2人は、素早く離れた。
恋に落ちかけた2人は、唐突に冷めてしまった。
「なんと、奴は、火・氷・水と3つも属性を持っているのか」
鬼一は、信じられないといった顔をしている。
「拙者も自分の属性を出してみるでござる」
虎之助は属性に興味を持ったようだ。
ーーどうせ、虎之助の属性は『暗黒』だろーー
と、鬼一が予想していると
虎之助は羅漢鬼に向かって行き
『ビューティフル・チョップ』
と、羅漢鬼の頭頂部にチョップを放つ。
すると、いかつい羅漢鬼の顔が、少しイケメンに変化した。
「なるほど、拙者の属性は、ビューティフルでござるな」
虎之助は一人で納得しているが
「そんな属性、無いわ!」
思わず鬼一は突っ込んだ。
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