第27話 黒瀬のリベンジ
文字数 4,288文字
最初に対決した廃校のグランドで、虎之助は黒瀬と対峙していた。
何故こうなったかというと、話は少しさかのぼる。
日本テクノロジーコーポレーションの社長室に黒瀬は呼び出されていた。
「京都での修行で、かなり腕が上がったようやな」
鬼塚は上機嫌で、アイコスを吸いながら聞いて来た。
「はい、おかげ様で、エイブラムス戦車120台分の戦闘力が付きました」
真面目に答える黒瀬。
「そりゃ、たいしたもんやなぁ」
「さっそくだが、君に任務を与える」
川島が説明し始めた。
「どのような任務ですか?」
「例の、DSP[デビルスペシャルポリス]の小娘を抹殺して欲しい」
ーーある程度は予想していたが、やはりそうかーー
「わかりました。今の私なら勝てると思います」
「ほう、あんだけビビってたのに、えらい自信やんけ」
「確実に勝てると思います。鬼神にお会いした時も、お褒めの言葉を頂きました」
「そりゃ凄いやんか」
「それで、若林は、どうします?一緒に連れて行きましょうか?」
「いや、あいつにもリベンジする相手がいるんや」
「ああ、確か左近とかいうDSPの侍ですね、奈良で襲撃に失敗したって言ってましたから」
「君は、良く知ってるねぇ。しかし、あまり知りすぎると長生きできんぞ」
鬼塚に凄まれた。
「すいません、以後気をつけます」
意外な鬼塚の迫力に、黒瀬はビビってしまった。
「君らは知らんと思うけど、この会社には知りすぎた者を抹殺する処刑鬼がいるんや。気を付けるんやで」
「はい、わかりました」
黒瀬は、ビビリながら退出していった。
「社長、処刑鬼なんてウチの会社に居ましたっけ?」
黒瀬が退出すると、すぐに川島が聞いて来た。
「いるよ」
「誰なんですか?」
「お前や。熊堂子は昔から処刑鬼の役なんや」
「そんな事、私は知りませんでしたよ」
「俺も知らんかったけど、ネットで調べたらそうやったんや」
「ほな、しゃないですね」
「そやな」
「それでは、私が魔界に行って、有望な鬼を集めて処刑鬼隊を編成するというのは、どうでしょう?」
という、川島の提案に
「グッドアイデアや。じゃあ、俺は地獄に行って、名のある鬼を集めてくるわ」
鬼塚も珍しく、協力することにした。
と、いうことで、黒瀬は因縁深い虎之助と、対決する事になったのである。
ライアンとマーゴットは、相変わらずアメリカ村の公園でタコ焼きを食べていた。
「あれっ?こっちに向かって来るのはアンドロポプじゃない」
「嫌な奴に見つかったな」
「よう、ライアンじゃないか、隣の美人さんは誰だい?」
アンドロポプは、気さくに声をかけて来る。
「俺の同僚のマーゴットだ」
「こんな美人が相棒なんて、羨ましいな」
「そう言うお前も、女の子を探してるんじゃないのか?」
「よく知ってるな、アメリカ支部は情報だけは早いからな。探しているのはDSPの娘だが、どこにいるのか知らないか?」
「あの娘は止めとけ、お前の勝てる相手じゃない」
「なんだとテメエ!俺が負けるとでも言うのか!」
「一度、負けたじゃないか」
「クソッ!お前らは何でも調べてやがるな。だが、次は必ずブッ殺す」
「無理だ。あの娘の強さは、俺たちとは次元が違う。俺が空母3隻分の強さだとしたら、あの娘は宇宙要塞デス・スター並の強さだ」
「デス・スターって、なんだ?」
「スターウォーズに出て来る、球体のデカくて黒い宇宙要塞だ」
「あの小娘が、そんなに強いハズないだろ」
アンドロポプは信じない。
「それに、リンゼイ老子が、あの娘のことを狙っている。老子に任せておけば良い」
「なにっ!あのリンゼイ老子が……」
さすがのアンドロポプも驚いている。
「じゃ俺も、しばらくは、ここでタコ焼きを食べて過ごそう」
「いや、あっち行けよ」
「いいじゃねえか、俺もその美人さんと仲良くなりたいし」
アンドロポプは、嫌がられながもライアンたちと合流する事になる。
「では、参るでござる」
虎之助が黒瀬に向かって走る。
黒瀬は、京都で作ってもらった特殊合金製の金棒を構えた。
ーーこの特殊合金は、すべての物質を破壊する。悪いが今度は俺が勝つーー
ガキっ!!
虎之助の刀と黒瀬の金棒がぶつかり合い、虎之助の刀が粉々に砕けた。
ーー今だ!ーー
チャンスと見た黒瀬が、金棒を虎之助の頭部に打ち付ける。
虎之助は、後方に下がって金棒を避けた。
「少しは腕を上げたようでござるね」
「修行中は、毎日が地獄だったからな」
「では、拙者も奥義を出すでござる」
虎之助が、青いマジカル棒を振ると、魔法セーラー戦士ポピリンに変身した。
ーーなんだ、この技は?もしかして、ふざけてるのか?ーー
黒瀬が怯んだスキに、ポピリンの手刀が心臓を狙って来た。
とっさに、金棒で胸を防御する。
「この、金棒に触れた物は、すべて破壊する。防御も完璧だ」
黒瀬は、絶対の自信を持っている。
「じっちゃんの顔にかけて、お仕置きでござる!」
ポピリンは、叫びながら向かって来る。
ーーじっちゃんの顔にかけてって、どういう意味だ?ーー
一瞬、黒瀬に迷いが生じた。
ズボッ!!
ポピリンの手刀は、金棒ごと黒瀬の胸を貫き、心臓を破壊した。
「ゴフッ!」
血を吐きながら、黒瀬は膝をつく。
ーーこっ、この娘には、まだ勝てんーー
粉々にされた特殊合金の金棒を見て、とても虎之助には勝てないことを黒瀬は悟った。
「では、とどめを刺すでござる」
とっさに黒瀬はスマホを取り出して
「待て、取引先から重要な電話が入った!今度、うまい蟹料理を奢って、この埋め合わせをするから、ちょっと待ってくれ」
苦し紛れにスマホを耳に当て、電話がかかって来たふりをする。
「蟹料理でござるか。なるほど、こやつ殺すには惜しい男でござる」
「では、いずれ。また、連絡する」
と言い残し、黒瀬は胸を押さえながら、全力で走り去って行った。
「取引先からの電話なら、仕方ないでござるね」
と言いながらも、魔法セーラー戦士ポピリンは蟹料理を想像して、ヨダレを拭くのであった。
一方、牛鬼こと若林は、左近らしき男が見つかったという情報を得ていた。
「奈良では恥をかかされたが、今度こそ、とどめを刺してやる」
と、意気込んで向かったのだが、見つけた左近は、すでに違う男と対峙していた。
辺りには、不穏な雰囲気が漂っている。
「お前は俺の子孫らしいが、これも運命だ。死んでもらう」
「貴様!左近の身体を乗っ取ったのか」
安倍顧問と、阿部仲麻呂こと左近である。
「人聞きの悪いことを言うな、左近は納得して俺と融合したのだ」
「貴様のような妖怪が、実直な左近を騙すのは簡単だろうからな」
「いや、左近を騙してなどおらん」
「行け!」
天狗と河童の式神が襲いかかる。が、左近に触れたとたんに式神たちは、元の御札に戻って行く。
「俺に式神は通用しない」
「ならば、これはどうだ!」
牛鬼が後ろから右爪を、阿部仲麻呂の心臓に突き刺した。
「誰だ!」
いきなり出てきた牛鬼に、両者が驚いた。
「事情は、良くわからんが左近は俺が倒す」
牛鬼の爪が阿部仲麻呂の心臓を深々と貫いている。
「この小僧が」
阿部仲麻呂が突き刺さった爪を抜くと、傷口があっという間に、ふさがっていく。
「お前、鬼になったのか?」
元の左近だと思っていた牛鬼は、戸惑いを隠せない。
「こいつは左近では無い、左近の身体を乗っ取った阿部仲麻呂という鬼だ」
安倍顧問が説明する。
「なんだか、ややこしそうだけど。とりあえず、こいつは俺が殺る」
若林は、左近にリベンジしなければならない。
「2人まとめて、あの世に行け」
阿部仲麻呂が、念仏を唱えだした。
すると、地面から無数の腕が伸びて来て、安倍顧問と牛鬼の足を掴むと地中に引張り込んで行く。
「うわっ!何だこれは?」
「そのまま、冥府まで送ってやる」
「これはヤバいぞ」
安倍顧問は焦っている。
牛鬼は、足を掴んでくる腕を切り払うが、数が多すぎて間に合わない。
2人とも膝まで地面に埋まって来てしまっている。
「この化物が!」
牛鬼の右爪が阿部仲麻呂の首を狙って伸びてきたが、難なく払われてしまう。
「おうぎょう際が悪いな」
阿部仲麻呂が懐から御札を取り出すと、巨大な竜の式神が現れた。
竜は口を開くと2人に向かって、この世の物とは思えない凄まじい炎を吐き出した。
2人の居た場所は、激しい炎によって跡形も無く灰になっていく。
「応竜の炎は一万度を超える。余計な奴も入って来たが、2人とも灰となった」
そう言い残すと、阿部仲麻呂は立ち去って行った。
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、みんなで晩御飯を食べていた。
「このビーフシチューは美味いでんなぁ」
小太郎は、ご機嫌である。
「あれっ、拙者のタヌキが帰って来たでござる」
虎之助の式神であるタヌキが、なにかを咥えて戻って来た。
「確か、左近を探しに行ってたはずでござるが」
タヌキが咥えていた物を見てみると、一枚の御札である。
「それは、安倍顧問のチワワの御札だ!」
そう叫ぶと、岩法師は虎之助から御札を取り上げて読みだした。
「死参と書いてある……」
岩法師の手が震えている。
「死して参上する、という意味でござるな」
「それじゃ、安倍顧問は死んだという事でっか?」
「そうでござる」
「なにバカなことを言ってんのよ、安倍顧問が死ぬ訳ないでしょう!」
「いや、桜田刑事。虎之助の言う通り、安倍顧問は死んだ……」
岩法師の声が震えている。
ビーフシチューを食べていた手が止まり、小太郎は茫然としている。
桜田刑事が泣き出したので、狂四郎がなだめている。
「タヌキに案内させて、現場を見に行くでござる」
「拙僧も行こう」
虎之助と岩法師は立ち上がった。
「ここは、どこだ」
目を覚ました若林は、なぜか全く知らない部屋に居た。
「私の借りてるアパートよ」
女性の声が聞こえたので、見てみると霊鬼であった。
「霊気さん、どうして?あなたは岡山県に居るはずでは?」
「岡山にはパチンコ屋が少なくて、じゃなくて、強烈な霊エネルギーを感じたから来てみたら、アンタが焼き殺されそうになってたんで霊体になってこっそり助けてあげたのよ」
「そうだったのですか。ありがとうございました」
ーー霊鬼さんが来てくれてなかったら、確実に死んでいたな。しかし、あの左近じゃなく阿部仲麻呂という男は強すぎる。牛鬼の力は完全に覚醒したのに、まったく歯が立たなかったーー
「そうだ、僕と一緒にいたDSPの男はどうなりました?」
「彼は鬼じゃなく人間だったから、手遅れだったわ」
ーーそうだな、彼には鬼の耐久力も治癒力も無いから。一時でも共闘した相手としては残念ではあるがーー
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