第22話 太陽系暗黒大魔王の復活でござる
文字数 2,870文字
「あれは、いったい何だ?」
奈良の飛鳥で修行中の左近は、奇妙な建物を見つけた。
古代中国にあったような、古めかしい一軒家である。
奈良県警に戻り、DSP[デビルスペシャルポリス]の責任者である大伴警部に話すと、その建物には決して近寄ってはいけない、と忠告された。
もともと、その建物は常人には見えない物で、陰陽師の修行者だけ、ごく稀に見えることがあると言うのである。
「常人には見えないとは、奇妙な建物ですね?」
気になった左近は尋ねた。
「あくまで噂だが、奈良時代に阿部仲麻呂という高官が中国へ陰陽師の秘伝書を取りに行ったのだが、自身は陰謀に巻き込まれて日本に帰ることが出来なくなり、他の者に秘伝書を託して、日本に持ち帰らせたそうだ」
なにやら話が難しくなって来たが、左近は興味深く聞いている。
「その阿部仲麻呂の息子が、安倍晴明を輩出した安倍一族の祖である」
ーー安倍一族というと、安倍顧問の家系だなーー
「あの建物は、中国で阿部仲麻呂が住んでいた屋敷である」
「なんですと?」
「阿部仲麻呂は日本に陰陽師を持ち込んだ功労者であるが、死後は鬼になったと言われている」
「鬼にですか。では、まだ生きており、屋敷ごと日本に帰って来ていると?」
「そう言い伝えられている。鬼の家という事なので、左近君も決して近寄らないようにしてくれよ」
「チャッピーが死んで無かったとは、えらい事になりましたなぁ、姉さん」
DSPの宿舎では、転生者たちが、くつろいでいる。
「そんな事より、拙者のジャンバーが破れてしまったので、また買わないといけないでござる」
「姉さんの服は、よく脱げたり破けたりしまんなぁ」
狂四郎はコーヒーを飲みなが、虎之助と小太郎の会話を聞いている。
「拙者は、お色気キャラだから仕方ないでござる」
「ブッ!」
狂四郎が飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「行儀が悪いでござるね、狂四郎は」
「いや、お前は絶対に、お色気キャラじゃ無いだろう!」
「そんな事は無いでござるよ。拙者は巷では、リアル峰不二子と呼ばれているでござる。小太郎も、そう思うでござろう?」
小太郎は困った顔をしてる。
「いや、ちょっと、その峰不二子という人を知りまへんので、すんまへんがチンパンジーに置き換えて説明してもらえまへんか」
「ええっと、じゃ、拙者は巷では、リアルチンパンジーと呼ばれているでござる」
「なるほど分かりました。姉さんの色気はチンパンジー並という事ですね?」
「そうでござる」
「ブッ!」
またしても狂四郎は、飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「またでござるか。狂四郎は、お行儀が悪いでござる」
「お前らがアホ過ぎるからだろ!」
「本物の阿呆のお主に、アホと呼ばれる筋合いは無いでござる!」
虎之助がキレた。
「なんだと!このAカップ娘!」
狂四郎もキレている。
「2人とも、落ち着いて」
小太郎は、オロオロしながら2人を止めようとした。
「なんの騒ぎだ」
騒ぎを聞いて、岩法師が部屋から出て来た。
「それが」
小太郎に、いきさつを説明されて岩法師が、虎之助と狂四郎を見てみると、まだ、お互い睨み合っている。
「仲間同士で喧嘩してないで、不死身のチャッピー対策を考えろ」
2人は、岩法師に怒鳴られてしまった。
「アイツは、雷遁の術の電撃でも、生き返ったでござる」
虎之助も、不思議がっている。
「俺の仙道は通用するかな?」
「難しいだろうな」
「拙者は、お腹が空いたでござる」
みんなで考えていると、虎之助が空腹を訴え出した。
「まあ、確かに、腹が減っては戦は出来んと言うし。今日は特別に拙僧が美味しい鰻屋に連れて行ってやろう」
「やったー」
みんな大喜びで、岩法師に鰻を奢ってもらう事になった。
ビジネス街の高層ビル最上階では『大阪鬼連合団体』の定例会議が行われていた。
議長は鬼塚である。
今回は、チャッピーも参加している。
「では、みなさん、定例報告を行います。牛鬼と黒瀬が京都で修行中ということで、京都の鬼神から送られて来たアンドロイド鬼のチャッピー君ですが、さっそく『国際電器保安協会』のエージュントとDSPを相手に一人で殺り合って来ました」
「一人で、そんなに多勢と殺り合うとは、たいしたモンですなぁ。それで、何人殺したんです?」
古株の男が質問した。
「『国際電器保安協会』のエージュントには逃げられ、DSPの小娘からは半殺しの目に合いました」
「微妙な成績ですなぁ」
「お安心ください。チャッピー君は半殺しにされると、更に戦闘力が上がって復活するという、サイア人のようなシステムが付いてますので」
「チャッピーそんなシステム付いて無いよ」
否定するチャッピー。
「本人が、付いて無いって言ってますよ」
若い男に突っ込まれた。
鬼塚はチャッピーと、小声で3分ほど確認し合うと
「そんなの、付いて無いそうです」
と、訂正した。
「ついて無いんかい!!」
一斉に野次が飛んで来る。
「嘘付き!」
「帰れアホ鬼!」
「うるさいなあ、お前らは。付いてたら夢があって良いなぁ、って思ったんや」
「思っただけで、会議の場で言いきったらダメですよ!小学生じゃあるまいし」
鬼塚は、川島からも注意されてしまった。
「まあ、それはそれで良いとして。現在、四天王の座が1つ空いているのは、みなさんご存知だと思うのですが」
「また、四天王問題ですか?」
「もう、四天王は解散したのかと思ってましたよ」
「過去の遺物ですな」
「平成時代の懐かしい思い出ですね」
「あの人は今、って感じかな」
「四天王のメンバーは今頃、何してるんでしょうね」
「お前ら、寝ぼけたこと言いやがって。俺と川島と牛鬼は現役バリバリの四天王や!しかも、そのうち2人は目の前に居るやろ!」
「そうでしたっけ?」
「そうなんだよ!」
「それで、四天王がどうかしたのですか?」
「新しい候補者が見つかったから、お前らに紹介したる。牛頭君と馬頭君や」
鬼塚は2人の男を、みんなに紹介した。
大柄で、いかつい筋肉質の男が牛頭で、細みの優男が馬頭らしい。
「彼らは、地獄で獄卒を務めていた鬼のエリートや、みんなよろしくな」
「よろしくは良いのですが、2人も増えたら、また四天王が5人になりますけど?」
「あっ、ホンマや」
『大阪鬼連合団体』の会議は、またしても四天王問題に悩まされるのであった。
その頃、火星では。
『太陽系暗黒大魔王』を封じ込めている宮殿に怪しい人影がある。
人影の正体は、泥酔したタコ四十郎であった。
火星が平和になり、つい飲み過ぎてしまったタコ四十郎は、自分の家と宮殿を間違えて入ってしまったのである。
「うぃー、もっと酒が欲しいでチュー」
あたりを探していると、古臭い壺を見つけた。
太陽系暗黒大魔王が中で寝ている壺である。
「お酒が入ってないでチュかね〜」
スッポン!
なんと、タコ四十郎は壺の蓋を開けてしまった。
壺から、勢いよく煙が吹き出す。
「なんでチュか、これは?」
煙の勢いでタコ四十代郎は、ひっくり返り、煙の中から人影が現れた。
ついに『太陽系暗黒大魔王』が、この世に甦ってしまったのである。
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