第106話 西王母
文字数 2,006文字
「もう、かなり登ったな」
加藤は、まだロープを登っていた。
地上から数千メートルはありそうだ。
「おや、あれは何だ」
雲の上の方に、なにか岩ような物が見える。
さらに登って行くと、山の頂上部分だけが、雲の上にそびえ立っていた。
「まさか、あれは、伝説の崑崙山」
加藤は夢中でロープを登り山頂に向かった。
虎之助が食堂に来てみると、岩法師と左近に並んでボルデ本山も『柿の葉寿司』を食べていた。
「あっ、ボルデ本山。なんで、お主も食べてるのでござる?」
「ゴチになってます、ムシャムシャ」
美味しそうに食べるボルデ本山。
「この人が、お前の友達だって言うから、一緒に食べてたんだ」
岩法師が説明する。
「まあ、知り合いではござるが」
イマイチ納得がいかないが、虎之助は、とりあえず自分の分を食べ始めた。
小太郎と狂四郎もやって来て、みんなで食べていると、不意に岩法師が
「そういえば、加藤さんは、どこに行ったんだ?左近と出かける前には居たのだが」
と聞いてきた。
「さあ、知りませんね」
とぼける狂四郎。
「俺も知りまへんなぁ」
小太郎も、とぼけている。
「虎之助。お前は何か知らないか?」
岩法師が虎之助に確認して来た。
「加藤なら、ロープで空に登って行って消えたでござる」
バカ正直に答える虎之助。
「なんじゃと!消えたって、どこにだ?」
「加藤は宇宙に行ったでござる」
少し話を盛る虎之助。
「そんな阿呆な」
「たぶん、海王星まで行ったでござる」
大幅に話を盛る虎之助。
「そんなに遠くにか!」
おどろく岩法師。
「日頃から、海王星に行きたいって言ってたでござる」
虎之助は、自分の中にある理想の加藤のイメージを想像して言った
「そんなこと言ってたかなぁ」
岩法師は首をかしげた。
「言ってたでござる。海王星の海で、全裸になって水泳をするのが夢だったみたいでござる」
虎之助は、自分が見てみたい加藤を思い描いて言った。
「氷点下の海王星に海は無いと思うけどな」
虎之助の話を、不思議そうに聞いている岩法師。
「ほう、ここに客が来るとは、何百年ぶりだろう」
山頂に着くと、身なりの良い中年の紳士が加藤を出迎えた。
「ここは崑崙なのか?」
加藤は、たずねた。
「そう呼ぶ者もいるらしい」
中年紳士が答える。
「やはりそうか。それでアンタは何者だ?」
「私は西王母様の秘書で、パーカーという者だ。君は加藤段蔵だろ」
「なぜワシの名を知っている?」
「地上のことは、すべて把握している」
「西王母がココに居るのか?」
西王母とは崑崙に住むといわれている伝説の聖女である。
「西王母様はいらっしゃるが、君には会う資格がない」
「会う資格って何だ」
「人格と強さだ。君には両方とも欠けている」
「なんじゃと、ワシは『飛び加藤』と言われた伝説の忍者じゃぞ、貴様なんぞは瞬殺できる」
「お前のような下界の虫ケラなんぞに、私が負けるハズないだろう。バカも休み休みに言え」
パーカーは意外と口が悪かった。
「なんだと、やるかテメエ!」
加藤は刀を抜いて構えた。
その時
「お待ちなさい」
と、パーカーの後ろから女性が声をかけて来た。
「これは西王母様。へんてこりんな男が来たので、今から追払らうところです」
パーカーは急いで振り向いて、西王母にお辞儀をする。
「その、へんてこりんに私は用があります」
西王母と呼ばれる女性が言った。
「この、へんてこりん、にですか?」
パーカーが確認する。
「その、へんてこりん、にです」
ーーへんてこりんって、もしかしてワシの事かなぁーー
と思いながら、加藤は西王母の姿を見て絶句した。
「まさか、アンタは!」
「やはり驚きましたか」
予想通りといった西王母の反応である。
加藤が驚くのも無理はなく、高価な衣装で着飾っているものの、西王母は虎之助に生き写しであった。
「なぜだ、なぜアンタは虎之助にそっくりなんだ」
叫ぶように質問する加藤。
「それは、あの娘が闇の西王母だからです」
西王母は静かに答える。
「虎之助が闇の西王母って。本当ですかそれ?」
「そうでござる。いや、間違えた。そうです」
西王母は少し、言い間違えた。
「あれっ、今『ござる』って言いませんでしたか」
「言ってません。拙者はそんな事、言ってません」
西王母は否定するが
「今『拙者』って言いましたよね?」
と、また加藤に突っ込まれてしまった。。
「私は、そんなこと言いません。変な言いがかりは止めて下さい!」
少し動揺する西王母。
「コラッ、お前!西王母様に対して無礼だぞ」
2回も西王母に突っ込んだので、パーカーに怒られてしまった。
「いや、そう言われても、聞こえたんだから仕方ないだろ」
「聞こえたとしても、聞こえていない振りをするのが礼儀だ。この下等なウジ虫が」
相変わらずパーカーは口が悪い。
「およしなさいパーカー、お客様に対して失礼でござる」
パーカーをたしなめる西王母であるが、なぜか語尾が「ござる」なのであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)