ヤドナシ

文字数 1,260文字

【ペンネーム】ヤドナシ
2018/01/17 14:45

yomogi

––校庭の銀杏の樹の下には死体が埋まっている––



そんな噂を聞いたのが昨日のこと。


夜中に自転車を漕いで学校まで来たのがついさっき。


そして今、私は校庭の銀杏の前に立っている。



「どうしてそんなことを?」って?


決まってるじゃん、掘るためだよ。



私は家から持ってきたスコップを手にとる。


硬い根っこの張った地面をザクザクと削っていく。


冷たい夜風が、私の髪を引っ張って邪魔をする。


何度も何度も視界が隠されて煩わしい。



私はスコップを置いて、両目にかぶさった髪の毛を掴む。


ブチブチ嫌な音を立てて邪魔だったものがなくなった。


これでよし……私はもう一度スコップを握りしめる。



風がヒューヒュー唸って悔しそうに服を掴む。


そんなことしても無駄だよ。もう私の髪は引っ張れないよ。


だけど今度は、ヌメッとした液体が頭から垂れてきた。



目に入ったら嫌だなと、何度も何度も額を拭う。


だんだん手がぬるぬるになってきた。


スコップが滑って手から逃げていく。


だけど私は掘り続ける。


このままじゃ気になって寝れないもん。



銀杏の樹は、私が何をしているのかと上から覆いかぶさるように覗いている。


何でもないよ、ちょっとあなたの下に埋まっているものが見たいだけ。


そうか……まあ、根っこは傷つけるなよ。



私は慎重に樹の根を避けて、深く深く地面を掘る。


最初は凍ったように硬かった地面が、いつの間にかサクサク掘れるようになってきた。


もう少しだ。私の直感はそう言っている。



私はスコップを手放して両手で地面を掘り始めた。


ぬるぬるの手で何度もスコップを滑らせるより、この方が速い気がする。


それに、死体が出てきてスコップで傷つけたら悪いもんね。



私の腕が、肩まで地面の中に入れるようになった頃、白くて軽い何かを見つけた。


あっ、あった……。


崩れないように、慎重にそれを私は持ち上げる。



私のぬるっとした手に握られたそれは、カサカサでボロボロだったけど、優しく握り返してくれた。


寒くて冷え切っていた私の手が、少しだけ暖かくなった気がする。


見つけたよ……やっぱりここにいたんだ。



私は握りしめたそれを、壊れないようにそっとポケットに入れる。


穴の中を探してみたけど、他に埋まっているものはないみたい。



バラバラにされちゃったんだね。酷い思いしたね。


他の部分はどこかにあるのかな? もう腐ってるか焼かれたりしてるのかな?


だけど大丈夫、あなたの一部は私がちゃんと保管してあげるよ。


他の人たちと一緒に……。



私は元どおり土を戻して、置いていたスコップを握りしめた。


風がまた強くなってきた。早く自転車を置いているところまで戻ろう。



寂しくなった額に向かって、意地悪な風がこれでもかとぶつかってくる。


もういいでしょ、もう終わったんだよ。


くしゅん、っと鼻水出したのを見て、風はようやく離れてくれた。



悪戯っ子にも程がある。風邪をひいたらどうしてくれるんだろう。


校門の前に止めていた自転車に乗って、私は家に向かって漕ぎ出した。


時折、ポケットの中に手をつっこんで、自分を握り返すそれの感触を確かめながら……。


(完)

2018/01/17 14:45

yomogi

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