––校庭の銀杏の樹の下には死体が埋まっている––
そんな噂を聞いたのが昨日のこと。
夜中に自転車を漕いで学校まで来たのがついさっき。
そして今、私は校庭の銀杏の前に立っている。
「どうしてそんなことを?」って?
決まってるじゃん、掘るためだよ。
私は家から持ってきたスコップを手にとる。
硬い根っこの張った地面をザクザクと削っていく。
冷たい夜風が、私の髪を引っ張って邪魔をする。
何度も何度も視界が隠されて煩わしい。
私はスコップを置いて、両目にかぶさった髪の毛を掴む。
ブチブチ嫌な音を立てて邪魔だったものがなくなった。
これでよし……私はもう一度スコップを握りしめる。
風がヒューヒュー唸って悔しそうに服を掴む。
そんなことしても無駄だよ。もう私の髪は引っ張れないよ。
だけど今度は、ヌメッとした液体が頭から垂れてきた。
目に入ったら嫌だなと、何度も何度も額を拭う。
だんだん手がぬるぬるになってきた。
スコップが滑って手から逃げていく。
だけど私は掘り続ける。
このままじゃ気になって寝れないもん。
銀杏の樹は、私が何をしているのかと上から覆いかぶさるように覗いている。
何でもないよ、ちょっとあなたの下に埋まっているものが見たいだけ。
そうか……まあ、根っこは傷つけるなよ。
私は慎重に樹の根を避けて、深く深く地面を掘る。
最初は凍ったように硬かった地面が、いつの間にかサクサク掘れるようになってきた。
もう少しだ。私の直感はそう言っている。
私はスコップを手放して両手で地面を掘り始めた。
ぬるぬるの手で何度もスコップを滑らせるより、この方が速い気がする。
それに、死体が出てきてスコップで傷つけたら悪いもんね。
私の腕が、肩まで地面の中に入れるようになった頃、白くて軽い何かを見つけた。
あっ、あった……。
崩れないように、慎重にそれを私は持ち上げる。
私のぬるっとした手に握られたそれは、カサカサでボロボロだったけど、優しく握り返してくれた。
寒くて冷え切っていた私の手が、少しだけ暖かくなった気がする。
見つけたよ……やっぱりここにいたんだ。
私は握りしめたそれを、壊れないようにそっとポケットに入れる。
穴の中を探してみたけど、他に埋まっているものはないみたい。
バラバラにされちゃったんだね。酷い思いしたね。
他の部分はどこかにあるのかな? もう腐ってるか焼かれたりしてるのかな?
だけど大丈夫、あなたの一部は私がちゃんと保管してあげるよ。
他の人たちと一緒に……。
私は元どおり土を戻して、置いていたスコップを握りしめた。
風がまた強くなってきた。早く自転車を置いているところまで戻ろう。
寂しくなった額に向かって、意地悪な風がこれでもかとぶつかってくる。
もういいでしょ、もう終わったんだよ。
くしゅん、っと鼻水出したのを見て、風はようやく離れてくれた。
悪戯っ子にも程がある。風邪をひいたらどうしてくれるんだろう。
校門の前に止めていた自転車に乗って、私は家に向かって漕ぎ出した。
時折、ポケットの中に手をつっこんで、自分を握り返すそれの感触を確かめながら……。
(完)