三題噺のお部屋
前のエピソードへ「ヤドナシ」
セリフを投稿
文字数 3,447文字
rsesaf_rsesaf
東京に上京した彼は物価の高さから住む場所に困っていたのだ。そこから、母が他人である彼をいきなり居候させると言い出したときは驚いた。
母はよっぽど彼のことを気に入ったのだろう。 単身赴任している父も彼と電話で話したら良い人だから大丈夫だと言って簡単に許可したし。
そういえば、クロちゃんを飼い始めたのもあの辺りだったわね。
……それはそうと、冬美ももうすぐ成人するんだからITの就職、頑張りなさい
あ、彼氏とかは、あの子みたいな子が良いわ、お母さん いや、いっそうのことあの子に……
母の悪い癖だ。就職もまだ先だし。最後にいたっては大学が忙しいため、彼氏とか考えている余裕はない。
歯車なのか時計なのかわからないけれど、何か擦れるような音が聞こえる……
私は彼を見送った後、大学で講義を受け
、そのままバイト先へ向かい、今家に帰ってきた。
何か仕事のことで忙しくて集中したいから、部屋には入らないで欲しいって言ってたわね
それにしても、集中したいのならクロは邪魔になると思うのだけれど。私は違和感を感じたが、特に気にすることはなかった。
結局、そのままその日、彼は部屋に閉じこもったままだった。
音が聞こえる……
ふと、私は目が覚めた。
私は気になったため、部屋から出て、二階のほうをみた。
——二階の部屋から明かりが漏れている。
彼が閉じこもっている部屋だ。
わずかに開いているドアから部屋の様子をみた。
——そのクロの顔は皮膚がめくり上がり、赤い肉が覗かせていた。彼の手には、ナイフ…… そして彼の左目は歯車の形をしていて……
心臓が破裂しそうだった。
私はこれはきっと夢だと思った。だってそうだよ、こんなのありえない、ありえない。現実とはとても思えない。
私は声を押し殺したが、動揺からドアを前に押してしまい……ドアがギギッと音を立ててしまった。
そして、鼻に刺激臭を感じたところで私の意識は途切れた。
でも、今は静かにして欲しい
……最初からかな、うん
はじめに言っておくとね——僕は、ロボットなんだ
抉られた左目があった場所には歯車がまわっている。——カチカチカチ……カチカチカチ……あの音だ……
その人に人間と暮らせと言われてね、遺言だよ
その後、遺言通り行動して僕はこの街にたどり着いた
そして1年前、君のお母さんに出会ってね
彼女は1人でいた僕に優しくしてくれた
だから僕は君のお母さんを助けた
そこまでは事実だ
そこからは僕の暗示の電波を使って居候させてくれるように誘導した お父さんも電話越しに携帯を通して暗示をかけた 君もちょっとおかしいと思っただろ
クロが道路に飛び出したからお母さんも一緒に飛び出して車に轢かれそうになった……お母さんはなんとか助けられたけど、クロは轢かれてしまってね 命を繋ぐには機械の身体にするしかなかった……そのメンテナンスをさっきしていたんだよ……僕がいなくてもいいようにね……この眼の歯車は真ん中が顕微鏡のように扱えるから便利なんだ
おかしいよね、ロボットなのに 君のお母さんと最初に会ったときに優しさを知ったからかな それとも嘘をつくのに、もう疲れたからかな、それに僕はもう……うっ……
僕を造った人が死んだ今、僕が活動するためのエネルギーを用意できる人はいない……
要は燃料切れさ 僕を造ったあの人は短い時間でもせめて、楽しんで欲しいって思ったんだろう
生活を続ける時間が長くなればなるほど、人間のことがわかってきて、嘘をついている自分のことがどうしようもなく苦しくなっていった
本当はもっと前にここから出ていくつもりだったんだ…… 誰にも迷惑をかけずに海中とかで活動を停止——死のうと思った
嘘をついていた僕にはお似合いの終わりさ
けど、それでも、嘘ついていたっていうのに、苦しいと思っていたはずなのに、この家の皆との生活が楽しくて、どうしても決心がつかなかった……
本心を話さずに、誰にも本当の自分を知られることなく死ぬのが嫌だった……
ああ、でももうこれでお別れだ……
暗示が解けた今だからわかる。 初めが嘘だったとしてもあの優しさは本物だった。
だから、立派な家族だった。たった1年でも……
必ず、もう一度、謝ってもらうんだ。これで、終わりは嫌だ。
それでも彼の体に残っていたエネルギーの残滓からエネルギーを再現するのに10年の時間がかかってしまった。
母はあの日の朝、暗示が解けてからずっと泣いていた。今日までずっとだ。皆がいないところで。
彼は一瞬驚いたがすぐに微笑んでこう言った。
アップロード可能なファイルは5MまでのPNG、JPEGです。
縦幅は、画像の縦横比率を保持して自動調整されます。
スマホでの表示は、大・中・小のどれを選択しても、一律で320pxに設定されます。
★いいね!
ファンレターを書く
次のエピソードへ 藪亜季
作品お気に入り
登場人物はありません