人は死ぬと星になるそうですね。
わたくしは人ではなく鬼なので死んでも空に浮かぶことなく、ただの骸になるのでしょう。
節分の日にひょんなことから仲良くなった自称鬼の娘が、私の部屋で柿ピーをポリポリと囓りながら笑いながらそう言った。
ふたりで眺めていたテレビには星空が映っていた。
「ねー、ちょっと待って。鬼に柿ピーはありなの? 豆ぶつけられたら退治されるのに?」
鬼の娘なんて眉唾だ。どこからどう見ても少し陰気な、でもよく見たらちょっと綺麗な女の子。腕にあるのは縦長のラインの傷跡。深くえぐれたそれは本気のしるし。自殺行為の証を彼女は隠さない。
「豆はだめですが柿ピーの主成分はこの柿の種です。主成分が重要なんです。豆100%は難しいけれど、これはほぼ柿なので、柿のぶん十分セーフです。鬼的には」
柿なんてひとつもはいってないのに、ほぼ柿と言われてしまっては柿ピーもやるせなかろうよ。
「じゃあ豆大福は?」
「豆大福も豆の含有量によりますね。豆だけを取り去ってしまえば」
「餡子が小豆だからあれはもう、ほぼ豆でしょうよ」
「え、餡子って豆か」
「そんなことも知らないで鬼やってんのかよ」
「人だって、いろんなことを知らないでも人としてやっていってる人が多いじゃないですか。あなた、鬼にだけ冷たいですね」
詳しい事情はさっぱり知らないし、聞く必要も感じないけれど。
きみは一回死に損なってからこの世に呼び戻されて、それでももう二度と人になりたくないと心に決めてしまったのかもしれないね。
「なんと鬼には世知辛い世の中だこと。星にもなれないし」
「そんなに星になりたいのかよっ」
もしきみが本当に鬼の娘で人じゃないから星にならないとしても。
「空に浮かぶ星になれなくても、プラネタリウムの星にならなれるんじゃない。プラネタリウムの職員に事前に賄賂を渡しといて」
人の手で作りだした偽物の星。なりたいかどうかは別にして。
「なるほど。ほぼ星という方向で」
「ほぼ星という方向で」
ほぼ人かもしれない鬼がちょっとだけ嬉しそうに笑ってくれた。