九相子々

文字数 999文字

 4月6日。年に一度のお茶会の日。私はベッドから起き上がり、すぐそばに控えさせてあった左手用の義手を手に取り、肘より下がない左腕に取り付けた。神経バイパスがつながる際、強い痛みが発生するが、もう慣れたものだ。

 私はベッドから下り、クローゼットを開く。そこから、年に一度、このお茶会の日にしか袖を通すことのないオーダーメイドの濃紺のスーツと純白のワイシャツ、無地のえんじ色のネクタイを取りだし、ネクタイ以外を身に纏う。

 着替え終え、私は洗面所に向かった。

 洗面所で念入りにひげを剃り、お茶会にふさわしい髪型にセットをする。

 やがて髪のセットを終え、私はネクタイを締め、リビングへと向かった。

 リビングに入るなり、私は入ってすぐそばにある棚の一番下の段を引いた。

 そこには、シンプルながらも高級感を漂わせる時計と、小さな小箱が入っている。

 私は時計を義手につけ、小箱をスーツのポケットにしまい、リビングを後にした。

 玄関でスーツ同様、この日にしか履かない深みのある茶色をした革靴を履き、家を出た。

 家を出た私は、まず花屋へと向かった。買う物は決まっている。

  花屋に着くなり私は店員に、

「バラを999本ください」

 と告げた。

 店員は特に何も言わず、柔らかな笑みを浮かべながらバラを用意する。

 やがて店員が、私に九九九本のバラで作られた花束を渡してきた。

 私はカードで支払いを済ませ、お茶会をする喫茶店へと向かう。

 喫茶店に入り、席に着くと私は二人分のコーヒーを持ち帰りで頼んだ。

 コーヒーを待っている間、私は店内に流れる軽快なジャズに耳を傾ける。

 そうしているうちに、二人分のコーヒーが出来上がった。

 私は再びカードで会計を済ませ、喫茶店を後にした。

 それから私は、墓地へと向かった。

 墓地に着くと、私は一つの墓に向かった。

 その墓の前に辿り着くと、私はコーヒーとバラの花束を備え、ポケットから小箱を取りだし、ゆっくりと開いた。

 そこには、小さなダイヤが装飾された結婚指輪と婚約指輪が入っていた。

 私は小箱を墓に供え、

「やぁ。今年もこの日がやってきたよ。――」

 と、墓標の下で静かに眠る彼女の名前を呼び、コーヒーが入ったカップにそっと口を付けた。

「私はまだそちらに行けそうにない。でも、私は何でも誓おう。キミをいつまでも愛する……愛していると」

 こうして私と彼女の二人だけのお茶会は、静かに幕を開けた。


2020/01/08 11:43

pepe_pero

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