眠クソメガネ【学生作品】

文字数 1,202文字

 ある日、友人がボクに「ドライブに行かねぇか」と、誘ってきた。ここ最近、イラストの作業も滞ってきたし、息抜きにはちょうどいいと、ボクは二つ返事でOKした。


「それで? 何時行くんだい?」

「今から」

「今から!? 車は」

「乗ってきたから安心しろ。さっさと行くぞ」


 そう言うと友人は、ボクの腕を引っ張って駐車場に向かい、BRZの助手席に押し込むと、すぐにエンジンをふかして、その場を後にした。

 車を走らせてから数十分。ボクは未だに目的地を知らされないまま、揺れる車内で友人と話していた。


「なあ、何処に向かっているんだ? そろそろ教えてくれたっていいじゃないか」

「それは着いてからのお楽しみだ」


 友人に、目的地を教えるつもりはないらしい。ボクは聞くことを諦め、静かに動き続けるエンジンの音をBGMに、景色を楽しむことにした。

 さらに車を走らせて五分と言ったところか。ボク達の乗っている車が、海岸沿いの道路に抜けた。


「もうすぐだ、海岸沿いに走った先に目的地がある」

「そこには何があるんだ?」

「それはまだナイショ」

「勿体ぶるにも程があるぞ」

「あと少しだ、それまで辛抱してくれ」


 あと少しという友人の言葉を信じ、ボクは再び、景色観賞に戻った。

 それから少し走った時、友人が口を開いた。


「見えてきたぞ。あそこの小屋が今回の目的地だ」


 ボクは友人の言う小屋に目線を向けた。よく見ると、何十年も使われていなさそうなボロボロの廃屋だった。


「あんなボロボロの小屋に何があるって言うんだ?」

「それは中を見ればわかるさ」


 小屋の前に車を停め、ボク等は小屋の中に足を踏み入れた。

 そこには、一つのボストンバッグが置いてあるだけで、それ以外には何も無かった。


「オイ、カバンしか無いけど、一体何があるって言うんだ?」

「その答えは、このカバンの中にある」


 そう言うと友人はカバンを手に取り、ファスナーをゆっくりと開いた。


「オ、オイ。これって……」


 カバンの中には、ぎっしりと紙幣がつまっていた。よく見ると、日本の物ではなかった。


「これは一体……」

「見ての通り金だ。百万ドルある」

「百万ドル!? どうしてそんな金が……」

「悪いがそれは言えない。ただ。お前には何も言わずに受け取って欲しい」

「受け取ってくれって、こんな大金を何故ボクに」

「オレにとって、お前が一番信頼できる友人だからだ」


 友人は真剣な眼差しでボクを見ている。そこには、嘘や偽りは微塵もない。


「……受け取るのはいい。けど一つだけ答えてくれ」

「なんだ?」

「この金には犯罪性は無いのか?」

「無い」


 友人は即答した。そこまで言われたらボクに断る理由は無かった。


「分かった。お前を信じることにするよ」

「そうか。助かるよ」


 そうしてボクは、金を受け取り、友人とその場を後にした。

 それから、友人は何処かに消息を絶った。

 受け取った金は、今でもある。

 これを使う日が訪れることはあるのだろうか。

2018/04/30 11:09

CHIHIRO_F

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