三題噺のお部屋
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文字数 843文字
「再起動<リブート>せよ」
憤怒の将軍は戦艦モニターに命を発した。
配下に控える数万の兵士らは眼前のモニターを注視している。
アルファ星雲にのみ存在する貴重資源である生物をめぐり、Q惑星とP惑星の対立は国際戦争に発展していた。生物の取り扱いを愛玩飼育と決めたQ惑星と食用と決めたP惑星の溝は深い。
とはいえQ惑星もP惑星の戦力に適わないと理解もしており、望んだ戦争ではなかった。すがるように救いを求めた宇宙平和維持軍もこの無限なる空間においては形ばかり。
「休み方改革のご時世、今や日曜日の定義も失われた記号でしかありません。昔は窓口なんて空いてないんですから」もの言いたげな視線を向けて「……食文化もそれぞれじゃないですかねえ」と言い放つだけだ。
Q惑星の威信にかけ、連合軍の指揮をとる憤怒の将軍の額には脂汗は浮かぶ。無数ともいえる淡い表示と移動、消滅を繰り返しては、何度目かのLOSEの文字が躍った。冷酷なる戦略シミュレーションに憤怒の将軍は声を張り上げる。
「再起動<リブート>せよ!」
しかし、有象無象の形を成しては崩れていく点滅を、最後まで追おうとはしなかった。憤怒の将軍は貴重資源の生物の姿を思い出していた。あの、毛玉のように愛らしい生物。何があっても毛玉らをP惑星の胃袋に収めるわけにはいかない。確信に近い予感が頭をよぎる。Q惑星連合軍はこのまま故郷には帰れない、と。
憤怒の将軍は戦艦モニターに休止<スリープ>を命ずる。
「我々は全力を尽くすことのみ」
うつむく兵士は改めて憤怒の将軍へ強いまなざしと敬礼を向けた。
「諸君、ディナーにしよう」
最後の晩餐なるやもしれぬディナー。
英気を養うのにふさわしい香り漂うたっぷりの煮込み肉ーー
Q惑星ではソウルフードとして庶民の味として親しまれているが
惑星が異なれば呼び名も鳴き方も変わるがゆえに、
P惑星では愛玩動物として飼育されていることーー
この段階では、これは誰も知らない事実である。
<END>
作:オノデラヒカリ
tony7351
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