『ツチノコと僕』
世界にはUMAと呼ばれる、目撃情報はあってもその存在が確定していない生物が多数存在する。ネッシーや雪男がその代表例だ。かつてはゴリラやパンダもUMAと言われていた。
日本にも河童などがUMAと言われているが、やはり日本で代表的なUMAはツチノコだろう。
江戸時代からその目撃情報はあり現在でも多数の目撃情報があるが、結局発見することはできておらず、ネズミなどを丸呑みした蛇を誤認したなどの説が有力となり、その実在は疑われている。
それでもツチノコを探している人は日本にたくさんいる。ロマンというものを追い求めているのだろう。
そしてここにもツチノコを探しているひとりの男がいる。27歳とまだ若いがすでに10年以上ツチノコを探し求めている男、土野光太郎だ。
光太郎は15歳の時に、当時住んでいた田舎の山でツチノコと思われるものを発見してから、ツチノコの魅力に取りつかれている。
今日も光太郎はツチノコを探して山に潜っている。今までの経験から、どういう場所にツチノコは現れないかというのはわかっている。さらにわずかな目撃情報などを総合して、かなり可能性の高い場所を探しているつもりだ。
光太郎はツチノコを見つけて、売ろうなんてことは思っていない。ただツチノコが存在するということを証明したいだけだ。
山に入って1時間以上が経ったころ。今日も何の収穫なしかと思ったその時だった。光太郎の2mほど先を、少し全体が膨らんでいて、蛇のような動きをする生き物が通った。
「あれは……!」
光太郎はすかさずその蛇を追いかける。すると木のくぼみを利用して作ったような巣穴に入っていった。そこにはたくさんのツチノコがいた。
「やっと見つけた!」
光太郎はカメラを取り出し写真を撮り始める。夢中になって写真を撮っていて、背後から近寄るひとりの男に気づかなかった。
「おいあんた。これツチノコってやつじゃあねぇか?」
「そうです! ツチノコは実在したんです。これは大発見ですよ!」
するとその大柄な男は、突然ツチノコを一匹その手につかんだ。
「こいつはいい。こんだけいるなら金にもなるだろう。ははっ。こいつを捌いてツチノコ酒でもつくってやろうか」
そう言って男は高笑いをする。光太郎はすかさずその男の手からツチノコを払おうとする。
「やめろ! いくら未確認生物だからって、動物をそんな風に扱っていいはずがない! その手を離すんだ」
光太郎はなんとかして男の手からツチノコを振り払った。そして数匹いたツチノコは巣穴から逃げてしまった。
「てめぇ、ふざけやがって。もう少しで俺に大量の金が入ったはずなのに……。ただじゃおかねえからな。てめえから先に捌いてやるよ」
男は光太郎の胸倉をつかみ、ポケットからナイフを取り出した。光太郎がもうだめかと思ったそのとき。突然大雨が降りだした。その突然の雨に男はひるみ、思わず光太郎を離してしまう。その隙に光太郎は男から距離をとった。
「くそが! 逃がさねえぞ」
男が天高くナイフを振りかざしたその瞬間。そのナイフを持った手に、雷が落ちた。
「ぐ、ぐわぁぁぁぁ!」
男は命まではなくしていないものの、かなりの重傷を負った。光太郎はなんとか助かったのだ。
「はあ。はあ。よかった……」
光太郎は男を助けるために救急車を呼ぶ。きっともう悪さはできないだろう。
光太郎が後ろを振り返ると、木の上にさっき助けたツチノコの一匹がいた。
「君が助けてくれたの?」
そういって光太郎は微笑む。その時ツチノコも少し微笑んだような気がした。
いつの間にか雨は上がり、空には綺麗な虹がかかっていた。