梁根衣澄【学生作品】

文字数 918文字


5月13日 日曜日。駅前のコンビニは、休日出勤のサラリーマンなどで溢れかえっていた。

そんな中、俺はこの店のマスコットキャラクターの着ぐるみに身を包み、疲れて表情筋の死んだ顔でレジへ向かう背広の大人たちを見守っていた。

 俺は、市内の中学校に通う、ごくごく普通の男子中学生だ。あえて普通じゃない点を挙げるとするなら――超絶貧乏、というところだろう。

 もちろん、中学生なのでアルバイトは学校で禁止されているが、他に女を作って出て行った父親の代わりに、病気しがちな母を養わなくてはいけない俺は、身分を高校1年生として偽り、法を犯してでも働かなくてはならないのだ。まったく、立場が弱い人間に厳しい世の中だ……。

 しかし、俺には食い扶持を得る他に、アルバイトで稼がなくてはならない理由がある。

 今日は母の日。今も体調を崩して臥せっている母親に、カーネーションをプレゼントしようと考えた。

 母は植物を愛していて、元気だった頃はよくガーデニングをしていたから、きっとカーネーションを見たら元気になってくれるかもしれない。また、笑ってくれるかもしれない。まだ子供な俺は、その考えにすがるしかないのだ。

 

「おーい、着ぐるみの少年! 今日はもうあがっていいぞー」

「はい、お疲れ様でした!」

 

 早々に仕事から解放された俺は、近所の花屋に走って、1週間ほど前から予約してあったカーネーションの花束を受け取り、全力疾走で家に戻った。

「おかえり……って、どうしたの、そんなに息を切らせて」

「はぁ……はぁ……。か、母さん!これ!」

 俺は、玄関で呆然とする母に、赤い花束を差し出した。

「まぁ、カーネーションね。嬉しいわ……」

「えへへ。ところで母さん、起き上がって大丈夫なの?」

「うん。嬉しくて元気が出たわ。もしかしたら、熱が下がったかもしれないね! さっそく体温計で計ってみようかな」

「母さんったら大げさなんだから……」

 嬉しそうにリビングに向かう母の後姿を見て、明日からまたバイト頑張ろうと強く思った。

 

 カーネーションは、俺たちの寝室に飾られることになった。    梁根 衣澄

2018/05/09 09:19

harine428

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