梁根衣澄

文字数 519文字

 終業のチャイムとともに、俺は講堂を飛び出した。

 ……というのも、朝ご飯を抜いてきたせいか授業中は腹が鳴りっぱなしで、周りの人に多大な迷惑をかけたと同時に、俺自身の羞恥心が恥ずかしさのあまり悲鳴を上げたからだ。

 今まで感じたこともないくらいの空腹。耐えられない。一歩進むごとに腹が鳴る。

「まさか朝飯を抜いただけで、こんなになるなんて……平和ボケした腹だな」

「平和ボケしてるのはお腹だけじゃないでしょ、類くん」

「え?」

 後ろから声をかけてきたのは、たまたま授業が被った友人・サトルだった。彼の手には、俺のリュックがぶら下がっている。

「空腹に耐えかねて講堂を飛び出したまではいいけど、荷物を忘れちゃダメでしょ。サ●エさんじゃないんだから。だいたい、君はいつも――」

「で、何を奢ればいい?」

「ラーメンで」

 サトルからリュックを受け取って、一応財布の中身をうかがう。5000札が入っていた。俺の全財産。家の電気料金を払うためにおろしてきた5000円だが、これだけあればサトル一人くらいなら奢ることが出来る。

「じゃ、いこうか」

「ゴチになりまーす」

 

 ……ラーメンは美味かった。とても。

 しかし、俺の家は、次のバイト代が入るまで停電する羽目となった。

2018/10/04 07:15

CHIHIRO_F

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