三題噺のお部屋
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わしが雪道を歩いていると、おなかが痛くなってきた。
おかしいな。
さっき食べた熊でも当たったんじゃろうか。
わしは痛む腹をさすりながら、ねぐらに向かった。
さがせば薬草のひとつもあるじゃろう。
しくしくしく……
だけどやっぱり、おなかが痛い。
さっき喰らった熊があたったらしい。
腹がいとうてたまらんのじゃ。
それは気の毒に。
では私が薬を作ってやろう。
そこの切り株に座って待っているといい。
ぜひたのむ。
薬の用意が出来たぞ。
よっこらしょ。
うう……冷えたせいか、少し痛みが増してきたぞ。
これを飲んで養生するといい。
私は体が冷えたので、これでおいとまするよ。
おだいじに。
兎神は妙に嬉しそうな顔をしながら、跳ねて去っていった。
ああ、兎神のやつ、こんなにたくさん薬をこさえてくれたのか。
ありがたい。ありがたい。
わしは、かたわらにうず高く積まれた薬の山に手を合わせた。
それは、大福のように白くて丸かった。
ひとつつかんで口に入れると、つめたくてきもちがいい。
なにやら固いものが歯に当たる。
これはきっと薬のかたまりじゃろう。
薬は噛んではいけない、と聞いたことがある。
わしは、そのままのみこんだ。
胃の腑に薬が落ちると、少し腹がおもたくなった。
よしよし。
わしは、白い丸薬をどんどんのみこんだ。
百ものみこんだ頃に、やっと薬はなくなった。
いやいや、これから、これから。
薬が腹の中でごりごりいって、熊の肉をすりつぶしていくようじゃ。
いずれ痛みもおさまろう。
わしは、ねぐらに帰るために起き上がった。
どすん。
わしはなかば身を起こしたところで、ひっくり返ってしまった。
おかしいのう。具合が悪いせいじゃろか。
もう一度。
よっこら……あああ。
やっぱり起き上がることが出来ない。
わしは仕方なく、ころころ転がって、大きな木の根元まで転がった。
数日後。
わしは雪の中で目覚めた。
そろそろ起きるか。
わしは体を起こそうとしたが、重さと雪でうまくいかない。
じたばたしていると、木に積もった雪がおっこちてきて、さらに雪が重くなった。
こりゃあ、どうしようもないな。
わしは雪が溶けるまで、もうしばらく寝ることにした。
西の。こんなところでどうしたんだ。
こんなところでどうしたのじゃ。
それはおぬし、兎のやつに一杯食わされたのじゃ。
それがどうした。
おぬしが喰らったのは薬でもなんでもない。
石を積めた、ただの雪玉じゃ。
兎のやつはおぬしをからかったのじゃ。
このとおり、腹痛(はらいた)は治ったぞ。
少々体は重くはなったが。
数ヶ月も寝ておればはらいたなぞ癒えるわ。
それよりも、たくさんの石をくらって、自分で起きられぬではないか。
よおし、いまからおぬしの腹を割いて石を出してくれるわ。
わしは、口の中に指をつっこんで腹の中身を吐こうとしたが、重くて口まで上がってこない。
だまってわしに任せるのじゃ。
なになに、案ずるな。きちんとあとで縫い合わせてやる。
そおれ!
ものすごく痛かったが、腹が重くてなにもできない。
東の山神は、わしの腹から石を取り出すと、ぽーんぽーんと向こうに投げた。
そうして、石の小山が出来るころ、わしの腹はからっぽになり、すっかり軽くなっていた。
どうじゃ、軽くなったじゃろう。
これに懲りて兎神には気をつけるのじゃぞ。
あやつにはわしがあとで仕置きをしてやるからの。
じゃあな。
わしは東の山神を見送ると、縫った腹が癒えるまでしばらく寝て、そのあとねぐらに帰った。
う~、う~、とうめき声がするので近寄ってみると、わしをだました兎神が石の下敷きになっていた。
どうしたのじゃ、兎の。えらくおもしろいことになっておるな。
ちょうどよかった。たすけておくれ。
この石の山をどけておくれよ。
じゃが、わしはこれから狩りにいくところ。
来年の春になったら助けに来てやろう。
いま春になったばかりじゃあないか。
まるまる一年かかってしまう。
寝ていれば、すぐ春になる。
そう言ってわしは、その場から立ち去った。
なあに、眠っていればすぐ春になる。
その後、石の山ではいつもうめき声が聞こえるので、人も魔物も寄りつかない場所になったそうな。
(おしまい)
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