「腕に巻く犬」海月海星

文字数 1,602文字

※学生用の投稿スペースです
2019/05/29 08:21

CHIHIRO_F

『腕に巻く犬』


 僕はいじめを受けて、学校に行っていない小学5年生だ。そんな僕がある日、目的もなく道を歩いているときに、目の前にいた車に轢かれそうな犬が、轢かれそうになる瞬間、急に僕のところに飛び込んできて、しかも何故か腕に巻きついてきた。

 その日からこの腕に巻かれた犬、ポコとの奇妙な共同生活が始まった。

「おい、光太! 今日も家から出ないのか。ボクを散歩に連れて行けよ!」

 僕の右腕から外出をせがむ声が聞こえる。ポコはなぜか人の言葉を話すことができる。全くもって鬱陶しい。

「うるさいなぁ。いじめっ子に会ったら嫌だから、あんまり外には出たくないんだ」

「そんな奴らのこと気にするなよ! 光太〜。散歩連れてってよ〜」

 そう言ってポコは僕の腕でゴネ始めた。

「ああ、もう! ただでさえいじめられているのに、ポコみたいなのが腕に巻きついていたら、余計にいじめられるよ!」

「ボクだってこんなの嫌だよ! 自由に歩き回りたいのに、なんでよりによってこんな引きこもりと……。もう我慢できない!」

 ポコがそう言うと、僕の右腕が勝手に玄関のほうに引っ張られる。ポコが無理やり引っ張っているのだ。

「ちょっと、ポコ! やめろよ! うわぁぁぁぁ!」

 結局ポコに引っ張られ、僕は外に出てしまった。

「わーい。久しぶりの外だ〜。光太、どこ行く?」

 出てきてしまったものは仕方ない。ちょっと付き合えば満足するだろう。

「ポコの好きにしていいよ。ただあんまり学校の近くには行きたくない」

「わかった! じゃあ、あっち側に行ってみよう!」

 ポコは僕の腕を、学校とは逆方向に引っ張った。

「こっち側に行くと公園があるよ。ポコ、行ってみたい?」

「行きたい! 光太連れてって!」

 僕は腕にポコを巻きつけたまま(何をしても取れないが)、公園に向かって歩いた。

 公園に着くとポコは、喜びの声を上げる。

「わぁー、けっこう大きいな! ボクも自由に走り回れたらな〜」

「僕は走らないよ。運動は苦手なんだ」

 僕は運動が苦手なのもいじめられている理由のひとつだ。

「それは我慢するよ。あれ? 見てみろよ光太。あっちで子供が泣いているよ」

 ポコに言われたほうを見ると、小さい女の子が泣いていた。

「ああ。木に風船が引っかかっちゃったんだね。あれはもう取れないかな」

「よし! 行くぞ!」

 ポコは急に気合を入れて叫び、僕の腕を全力で引っ張った。

「ちょっと、ポコ! 僕は木になんか登れないよ!」

「ボクに任せて!」

 そう言ってポコは、今までにないスピードで僕を引っ張り、そのまま木を駆け上がった。

「うわぁぁぁぁぁ!」

「よし、届いた! 光太、風船の紐を掴んで!」

「え? う、うん。それ!」

 僕はポコに言われるがまま、風船の紐を掴む。

「ナイス、光太! よし降りてあの子に渡そう」

 駆け上がったときの勢いのまま、ポコは僕を木の下に降ろした。

「光太、渡してあげて」

「う、うん」

 僕は木の上で掴んだ風船を、泣いている女の子に渡した。

「はい。もう離さないように気をつけるんだよ」

「わぁ〜。ありがとう! 犬がついているお兄ちゃん」

 犬がついているお兄ちゃんか……。まあ、こんな笑顔で感謝されれば悪い気もしない。僕は「どういたしまして」と返事をして公園を出た。

「ポコ、今日はポコのおかげで久しぶりに楽しかったよ。ありがとね」

「なんだよ〜。そんなこと言われると照れるよ」

 ポコは僕の腕で照れている。今更だけど、変な犬だな〜。

「今度……、久しぶりに学校に行ってみようかな」

「お、どうしたの? 急に。外に出れるならボクは嬉しいけど……」

 ひとりだったら行けないだろう。でも今の僕には……。

「ポコと一緒なら、行ける気がするよ。ただあんまり学校で騒がないでね」

「わかった! 学校も行ってみたい」

 そう言って喜ぶポコに僕も微笑む。僕たちは人助けができた気持ちを胸に、夕日に染まる道を歩いた。


2019/05/29 11:40

smallboy

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