「ツチノコ・アルフレッド・三世の冒険」梁根衣澄

文字数 1,076文字

『ツチノコ・アルフレッド三世の冒険』


 彼はツチノコである。人間の世界では未確認生物と言われているが、彼は確かにここに存在している。鮮やかな黄色の身体をうねらせて、細い尻尾を左右に動かし、渋谷の街をにょろにょろと闊歩するのだ。



彼の名はアルフレッド。祖父から父へ、そして彼へと受け継がれた名だ。彼はこの名に誇りを持っていた。祖父と父の魂が、このしなやかな体に宿っているようで。いつでも、敬愛する二匹が近くにいるようで。



アルフレッドは、今日も渋谷を這徊(徘徊)する。その行為に意味はない。ただ、見たいものはあった。人間たちが彼を見つけたがるのと同じく、彼にもまた、その思いがあるのだ。



「きゅるっ、きゅるっ、ヴァッ」



 声帯を持たない彼に、人間の言葉は難しい。見たいものはあっても、訊ねられないためいくら探しても見つからない。もしかしたら、彼と同じく、〝それ〟も未確認のものなのかもしれない。しかし、彼は諦めるわけにはいかなかった。



「いいかい、アルフレッドよ」



 魚と間違われ人間に捌かれた祖父の言葉が蘇る。死の間際、祖父は言った。



「ワシはもう死ぬが、ワシは虹となりお前を見守るだろう。それは、様々な色に我々の色がはさまれている、神聖なる橋じゃ。空にかかるという――」



「じぃ……」



 にじ。確かに祖父はそう言った。にじさえ見つけられれば、祖父と会えるかもしれないのだ。



 会いたい。会いたい。おじいさまに会いたい!



 その一心で、アルフレッドは進んだ。人間の歩く方向に逆らって、自分が前だと思う方を信じて。途中で冷たい雨が降り、空もどんより曇ってきたが、諦めずに這った。



 そして、ついにその瞬間がやってきた。



 前触れもなく突然青空が広がり、温かい陽が差した。人間たちも顔を上げ、顔を綻ばせている。



「じいちゃん! 見て見て、〝虹〟だよ!」



 人間の子供が発した言葉に、アルフレッドは這うのをやめた。



 にじ。にじって聞こえた。どこに……それはどこにあるのだろう!



 アルフレッドは首をきょろきょろさせ、虹を探した。そして、ふと人間が皆同じ方向を向いていると気付く。彼もそれに倣い、顔を上げると……



「――!!」



 紫、青、水色、黄緑、黄色、オレンジ、赤。七つの色で出来た橋が、空にかかっている。



 あれが、虹。あんな高い所に、おじいさまはいるんだ。いつでも見守っていてくれていたんだね、おじいさま!



「ヴァッ♪」



 かくして、彼の目的は果たされた。黄色い体をうねらせて、今日はお父さんの所に帰るのだ。

2019/10/23 10:27

harine428

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