国立太郎は、地元栗沢町で生まれ育ち、高校を卒業後に家業である八百屋を継いだ御年30歳のジモティ青年である。太郎は父親がそうであったように、地元の若手らと過疎化・人口減少が続く地元の地域活性化に精力的に取り組む青年会議所(JC)のメンバーでもある。
それはJCの定例会があったある7月下旬の夜のことだった。
「おい聞いたか? ハサンベツ里山に昨夜“隕石”が落ちたらしいってよ」
隣に座っていた幼馴染みの近藤タケシが太郎に話しかけてきた。
ハサンベツ里山とは、JR栗沢駅からクルマで10分ほどのところにあり、
20年前までは山野を切り開き田畑にして生活していた開拓農家が2軒暮らしていた地域である。不在荒地となったところを里山化して、元の自然に戻そうとする取り組みが町内有志で始めたところであった。
「何それ“隕石”だって? 町内の誰がそんなもの見たのかよ?」
太郎は半信半疑の表情で、と言うよりは内心全く信じていない呆れ顔でタケシへ聞き返した。
「大岩さんが見たって言ってるんだよ。昨夜、JCのOB会が『おらが村』であったことは、お前も知ってるよな」
大岩さんは、太郎らが所属するJCの元メンバーで今年50歳になる先輩である。家業の建設会社の二代目社長である。昨年父親が亡くなり専務から社長へ昇格し会社を引き継いでいた。
そうか、あの大岩さんが見たっていうのであれば、全くのデマでもあるまい。
「それで、タケシお前はハサンベツ里山へ見に行ってきたのか?」
そんなに言うのなら当然見に行ったんだろうな、と太郎はタケシの顔を覗き込んで尋ねた。
「さっき行ってきたよ。でも“隕石”なんてどこにも見当たらなかったさ」
「ハサンベツ里山って言っても広いのだから、里山のどこへ落ちたのか、大岩さんに聞いたのかよ?」
いつもタケシの悪い癖だ、ちゃんと確認しないで闇雲に動き出して。
「“隕石”ではないのだけど、奥のホタル沢に〇○があったよ」
「えっ、〇○だって!?」太郎は目を大きく見開きびっくり顔になった。