ヤドナシ

文字数 544文字

『本場の恐怖』 ヤドナシ


 計画停電の知らせが入ったのは一ヶ月前だった。学校を含むうちの近所一帯が、深夜2時〜3時の間停電になる。工事か、点検か、何のためにそうなるのか、詳しくは読まなかったけど、とにかく停電ということだけを見て、僕はチャンスが来たと静かに胸を躍らせた。


 停電なら、学校に仕掛けられた警報やセキュリティーも切れる。三年生から叶わなかった夢がついに叶う! そう、僕の夢は深夜の学校に忍び込むことだ。一度でいいから、『学校の怪談』の風景を実際に見てみたかった。もちろん、夜の学校で怪奇現象が体験できるなんて思ってない。ただ、本場の暗闇を、不気味さを、怖さを体感してみたいのだ。リアルの学校の恐怖を味わってみたい。

 リュックには、懐中電灯と深夜の空腹に備えて携帯食料を詰め込んだ。準備万端だ。いつでも窓から忍び込める。校門の柵を越え、静かに男子トイレの窓へ移動し、昼間、こっそり鍵がかからないようにしていた窓へ手をかけた。

 瞬間、ジリジリジリと警報ベルが響き渡る。喉の奥がキュッと縮まり、お腹の底が冷たくなる。最近のセキュリティーは伊達じゃない。停電中でも、ちゃんと作動するようになっていた。僕は慌ててリュックを背負い直し、一目散に学校を後にした。やはり、本場の恐怖は一味違った。
2021/04/13 11:47

yomogi

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