間部小部法竜【学生作品】

文字数 992文字

『失恋』間部小部法竜


 俺は失恋して失意のどん底にいた友人を連れて、昔よく遊んでいた海に行くことにした。

 午前十二時を過ぎた頃、ようやく目的の海に到着した。

 友人を連れ出すのに小一時間かかってしまった。成人男性を引きずるのは案外力がいることを、その時初めて知ったのだった。

「ほら着いたぞ!」

 俺は海岸に降りることのできる階段付近で車を停止させ、自分と友人のシートベルトを外して下車を促した。

「アミちゃんアミちゃんアミちゃん」

 しかし友人は振った相手の名前を呪文の様に唱えるばかりで、俺の言葉なんて耳にすら入っていない様子だった。

「お~い、いい加減忘れろよ」

 俺は友人の肩を掴み、軽く左右へ揺らした。

「アミちゃんアミちゃんアミちゃん」

「はぁ~……いい加減にしてくれよ~。社内一のマドンナに恋しちゃったお前もお前、だけどさ、あのマドンナはかなりの面食いみたいだからお前みたいな平均的な顔してる奴は、百万ドルくらいの金を用意しないと無理だと思うぜ」

「アミちゃんアミちゃんアミちゃん」

 俺は「はぁ~」と深いため息をした後、ふとマナーモードにしていたスマホの画面を見てしまった。ロック画面には『アミ』というラインの文字が表示されていた。

 噂をすれば影という言葉は本当なんだと思いながら、パスワードを入力し、送られてきたラインを見てみた。

『私、ずっと前から西野君の事が好きでした❤付き合って下さい❤❤』

 送られてきた文章を読み終わった瞬間、先程まで呪文を唱えていた友人の声が聞こえなくなった事に気がついた。

 俺は何か嫌な予感がして、ゆっくりと友人の方を見る。すると、これまでに見たことの無い形相で俺のスマホを睨んでいる友人がいた。

「あ、いや……これはだな」

 必死に弁明をしようとしたが、友人の顔にビビってしまい、上手い言葉が出てこなかった。

「ふぅー! ふぅー!」

 友人は闘牛の様に鼻息が荒くなり、今にも俺に突進してきそうな勢いだ。

「ち、違うんだ! 俺は別にあの子の事が好きって訳じゃなくて! あのあれあの!」

 俺は手をワチャワチャさせながら、必死に友人を宥めようと試みた。

「ふぅー! ふぅー! ふぅー! …………びぁ~、びぁ~」

 怒りのあまり突進してこようとしていた友人は、情緒不安定なのか急に泣き出してしまった。

 俺は、その友人にどんな言葉をかけていいか分からず、車を静かに走らせ、家路に着いた。


2018/04/28 14:05

CHIHIRO_F

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは自由参加コラボです。誰でも書き込むことができます。

※コラボに参加するためにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色