南雲あや

文字数 1,495文字

南雲あや
2018/03/10 01:09

nakumoaya


『風邪引いた』

そんなメールが来た。

またか、そう思うくらいにはよくあることだった。

自殺マニアだから、自分の身体を痛めつけ、無茶をする代償に、風邪を引いていた。

最近はめっきり減っていたから、そういえば久しぶりかもしれない。

このメールはただ知らせているだけではなく、「来て」という意味である。

私は家に向かう途中にあるいつものスーパーでミネラルウォーターと林檎を買った。

桃と迷ったけれど、林檎の方が安かったから林檎を手に取って、籠に入れた。


ピンポーン


一応チャイムを鳴らす。

どうせあの人は玄関に出て来ることはない、あと、こういう時は鍵は開いている。

ほら、開いた。


部屋に行くと、その人は床に敷いた布団で、仰向けに寝転がっていた。

目が合うと、にへっと笑った。


「あ、制服だ。初めて見たけど、可愛い」

「可愛い……って、嬉しいですけど。でも、気にするのはそんなことじゃなくって、自分の心配して下さい!」

「心配って……風邪くらいで死なないって。大体私、死ねないし」

「そりゃ、2階から落ちても死なない生命力ですし、川を流されても風邪を引くくらいで……って、まさかまた川を流されたんじゃ……!?」

「ご名答。川を流れてみるのが癖になってしまって、繰り返していたらついに風邪を引いてしまった」

「なんでちょっと嬉しそうなんですか! 死にますよ?!」

「大袈裟だなあ……たかが38度だってのに」

「38度は高熱です! たかがなんて言うのは馬鹿です!」

「うふふ……なんとかかは風邪ひかないっていうから私は馬鹿じゃないね」


「水、どうせ冷蔵庫にないですよね? 買ってきたから飲んで下さい」

「水か……飲ませてくれない?」

「!?!? そ、それって……」

口移し、という行為が頭の中によぎる。

なんかよく分からない関係だけど、一応付き合ってるはずだし、彼女としてはやっても不自然じゃないよね。

「……そんな悩むこと? 多分、そこにストローあるから使っていいよ」

「ストロー!!……そっか、そうですよね!」 

ペットボトルの口にストローをぶっさして手渡す。

物足りなそうにしていたけど、無視だ。

買ってきた林檎を剥くため、台所へと向かった。


「林檎、剥きました」

「わあ、林檎だ。風邪の時って林檎がやたら美味しく感じるんだよね」

それは分かる。

林檎と桃は、風邪の時に食べたい果物として挙げたい候補を争う。

「ん」

口を開けている。何がしたいのか分かった気がするけど、間違っていたら恥ずかしいから、気づかないふりをしておく。

あと、こんな時だけど滅茶苦茶顔が整っていて綺麗だ。

「……なに?」

「あーん、だよ。食べさせてくれないの?」

「なっななななな……!」

「さっき口移し期待してたみたいだけど、移っちゃったら悪いし止めたんだよ。林檎くらいなら平気だよね?」


そういつものようににこっと笑ってみせた。

しかも、読まれてた。し、気を使わせてしまった。

風邪引いてても、私はこの人に勝てないんだ。ああもう

「……好き」

「えっ、もう一回云って!? 頭がぼーっとして聞こえなかった!」

「テンション上がらないで下さい! 熱があがります!」

「あーー……熱ね、なんかもう引いたみたい」

「嘘!?」

「嘘じゃないよ、なんかもう平気。君と話してたら楽になってきた。君って女神様? ()しくは治癒系の異能力でも備わってる?」

「そんなわけないです。やっぱりまだ熱あります?」

「ないってば。何なら、確かめてみる?」

「確かめてって……如何(どう)やって……」

却説(さて)如何(どう)やろうかね」


ニヤリと笑って見せる。

この顔、確かにもう熱はないな。心配して損した。

でも、この人はこうであって欲しい。


2018/03/10 01:09

nakumoaya

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