「ほ~らヨルムちゃん、ご飯の時間だから尻尾からお口離そうね~」
甘ったるい声でケージの中で尻尾を噛んでクルクル回るヨルムンガンドのヨルムに懇願するこよみ。しかしヨルムは素知らぬ顔で、尻尾を離そうとはしなかった。
「もう~そうやっていつもお腹空きすぎて動けなくなるんだから~」
こよみはそう言いながらヨルムの頭と尻尾をつまむと、
「ちょ~っと離すよ~ごめんね~」
と、謝りながらヨルムの頭と尻尾を離した。
その瞬間、ヨルムがキーキーと抗議の鳴き声を上げる。
「ごめんて! ほら、ヨルムちゃんの好物、マグロの目だよ~」
こよみがマグロの目を見せた途端、ヨルムは鳴くのをやめ、つぶらな眼を輝かせ始めた。「ほら、口開けて~」
こよみがそう言うと、ヨルムは大きく口を開いた。そこに、マグロの目玉を近づけると、パクリと目玉に噛みつき、ゆっくりと飲み込んだ。
飲み終えるとヨルムは、小さくゲップをした。
「はぁぁぁぁぁぁ! マグロの目玉食べてるヨルムちゃんマジかわゆいぃぃぃい!」
そう叫びながら、こよみはヨルムをスマホで写真を撮りまくった。
そしてこよみは、その写真をケモスタグラムにアップする。
今、世界には空前の幻獣ブームが訪れている。
こよみが飼っているヨルムンガンドに始め、フェンリルやグリフォン。麒麟やぬえなど、世界中の様々な幻獣、神獣がマスコットサイズとなって、それをペットとしてたくさんの人が飼うようになった。
そして人々は自慢の可愛い幻獣たちをケモスタグラムにアップして、世界中にアピールしている。
「さーてヨルムちゃん、散歩行こうか」
こよみはそう言うと、ヨルムに手を差し伸べた。ヨルムはこよみの手を這うように上り、首に巻き付いた。
これが、こよみとヨルムのお散歩スタイルである。
アパートを出ると、外には様々な幻獣を連れた人たちが散歩に興じていた。
こよみもそれに倣って、いつもの散歩ルートを歩いていると、
「こよみさ~ん!」
と、大声で叫びながら、こよみの方へ駆け寄ってくる女性の姿が目に映った。その女性の肩には、木の根をかじっている体長三〇センチほどの、小さなニーズヘッグが乗っている。
「あ、はるこさん」
「こよみさん、こんにちは。ヨルムちゃんもこんにちは」
はるこが挨拶すると、ヨルムはこよみの首でクルクル回るのをやめ、キィーと一鳴きした。
はるこは、こよみの幻トモ――幻獣友達で、こうしてよく話している。
「こんにちは、はるこさん。それにニーグちゃんも! 大きくなったね~」
こよみはそう言いながら、ニーグの頭を撫でた。木の根をかじりながら、ニーグは気持ちよさそうに目を細めた。
「それにしても、ニーグちゃん大きくなったよね~」
「そうなんですよ~。ヨルムちゃんはまた綺麗になりました?」
「わかる!? つい三日前に脱皮したばかりなんだ!」
心なしかヨルムも、自慢げな顔をしている気がする。
「そうだこよみさん。この辺に幻獣連れ込みオーケーの新しいカフェが出来たらしいですよ。よかったら行きませんか?」
「ほんと!? 行く行く!」
それに賛同するように、ヨルムとニーグが鳴いた。
「じゃあ案内しますね」
そして二人は、そのカフェへと向かい、そこでお互いの幻獣愛を三時間、熱く語り合った。