千石京二

文字数 998文字

 今日は日曜日だ。仕事のない日、わたしはペットの様子を見ることから休日をスタートさせる。ペットといっても、犬や猫なんかのありふれたものではない。わたしが飼育しているのは、ケサランパサランだ。


 ケサランパサランという名前に馴染みのない人もいるだろうから一応説明しておくと、ケサランパサランとは白い毛玉のような生物だ。というか、見た目は白い毛玉そのものだ。白くて、丸くて、ふわふわしている。目も口もないし、手足も生えていない。もしわたしが飼育しているケサランパサランを、ケサランパサランを全く見たことも聞いたこともない人が見たら、綿埃だと思って捨ててしまうかもしれない。


 しかしケサランパサランは生物である。もちろん一般的なペットではないから、ケサランパサランフード、といったものもペットショップなどで売っていないし、そもそもケサランパサランが食べるものはおしろいだ。そう、化粧品のおしろい。白い粉。最近はいろいろ与えてみているが、パウダーファンデーションやプレストパウダーといった商品名で売られている化粧品の白い粉も、食べるようだ。白い粉なら何でもいいのだろうかと思って、一度小麦粉を与えてみたが、全く食べなかった。ケサランパサランには口がないし、わたしが見ている前で動くこともないから、いつどのように食事をしているのかは不明だが、食べているのである。


 デスクのパソコンの隣に置かれた、プラスチックの水槽を覗き込む。そこにはいつものように白くふわふわとしたケサランパサランが入っていて、昨晩与えたおしろいは綺麗になくなっていた。


「おはよう、ケサケサ」


 ケサケサというのはわたしがケサランパサランにつけた名前だ。動きもしないし、鳴きもしないし、知らないうちにおしろいを食べているだけの、ただそこにいるだけの埃みたいな生物である。しかしずっと見ていると、そのふわふわとした毛先だとか、ぽやぽやした丸っこさだとかが、なんとなく可愛らしく見えてくるのだ。


 ケサランパサランを大切にする人には、いつか幸運が訪れるという都市伝説があるらしい。もっとも、ケサランパサランの存在そのものが都市伝説のようなものだが、現にわたしはケサケサを拾ってきて飼っているのだから、都市伝説でもUMAでもない。


 いつかわたしのところにも幸せが訪れたらいいなあ、なんて思いつつ、わたしはコーヒーを淹れようと台所へ向かう。


作:千石京二


2018/05/31 09:57

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