「全国どこでも売っているお土産ってあるでしょう。木刀とか、星の砂の詰まったちいさなガラス瓶。いろんな味のふりかけや、『温泉に行って来ました』クッキー。たいてい、箱の裏のシールをみると、『販売者』の表記だけあって『製造者』がわからないやつ。ぼくね、そういうものを作る会社に就職したんだよ。商品開発担当で」
数年ぶりに会う幼馴染みは、串焼きのホルモンをしばらく咀嚼したのち、ビールで流し込む。
脂っこいけどくどくない、炭火で焦げた秘伝のたれが香ばしくてたまらない絶品ホルモンを彼も気に入ったようで、立て続けに2本目に手を伸ばす。店を紹介した身としてはちょっと得意な気分だ。
「ああ……そういうお土産って大人になってからはなるべく買わないようにしていたけど、作ってる会社はあるわけだ。あの旅行先を明記してあるお菓子なんかは、職場のお土産にはいいよね。日本中の土産物が、都内の会社でひっそり作られてると思うとすごいなぁ……」
わたしは好物のハツ串を口に運びながらうなずいた。大将、今日も焼き加減完璧だわ。粒マスタードを添えてくれるのも限りなくわかってる。ハイボールが止まらない。
「商品開発ってさ、どんなもの作ってるの?」
「そう言われると思ってはいこれ、ぼくが担当した新商品」
彼は鞄から筒状のものを取り出すとわたしに手渡した。赤い千代紙が巻かれたそれは、やっぱりよくある観光地のありがちな土産物屋でよく見る万華鏡だった。
「これが新商品? 昔からあるものでしょう?」
いぶかしげなわたしに彼は笑って、まあ試してみてよ、と促す。
いたずらっぽい微笑みは、かつてよく遊んでいたころと同じものだ。
これは絶対何か企んでる……
わたしは用心しつつ、片目をつぶり、半透明のフィルムが張られた万華鏡の筒先を、モツ焼き屋の裸電球にかざして覗き込んだ。
「えっ……これっ……なんじゃこりゃ!」
わたしの目の前に現れたのは、きらきらエフェクトをまとう、ホルモンとハツと粒マスタードの輪舞だ。白熱灯の光を受けて輝きながら滴る脂、湯気をあげながら美しい曼荼羅模様を形作るあつあつのもつ焼きたち。
「ほ……ホルモン焼きの大観覧車や……!」
彼はにっこり微笑んだ。
「それね、覗く直前に感動したものが見える魔法をかけてある。旅先で出会った絶景とか、一緒に旅した恋人の笑顔とか、いつでも何度でも見返せる万華鏡。どこの観光地で買っても、そこでしか買えない特別な土産物になるでしょう? それがおひとつたったの300円」
「君、また、才能の安売りして……」
魔法学校で同期の星だった彼は、得意顔だ。
卒業後の将来をそれは嘱望されたものだけれど、彼は数知れぬスカウトを袖にして、気の向いた時に好きな仕事をするフーテン生活を楽しんでいる。安定志向のわたしにはまぶしい生き方だ。
その後もホルモンをつつきつつ、他愛無い話をして、終電前に解散した。
次に会う約束はしなかった。
わたしは月あかりの下、万華鏡を覗いてみる。
焼きたてホルモンに交じって彼の笑顔が並んでいたことは秘密にしておいた。もつ焼きまみれの生首が並ぶさまは、ちょっと気持ち悪くてけっこう笑える。
「売れるのかな、これ……」