「オペレーション・ロック」考える葦

文字数 1,162文字

「不味いぞ……今日も雨が止む気配がない……」


 自分の目の前にいる河川監督長が深刻な表情で告げる。


「このままだと、明日を迎える前に沢は氾濫する……! そうなれば人の住む集落へどれ程の被害が出るか……」

「そんな……何とかならないんですか!?」


 情けないことだが、新入りの河川管理官である自分には確実な解決策が思い浮かばない。沢の水流の勢いは、最早人力での人海戦術で変えられるものではない程に強いからだ。土嚢を積み上げる前に、氾濫が先に起きてしまうだろう。


「……一つ、策がある。今すぐ重機を出せる民間企業を探すんだ!」

「は、はいっ!」


 監督長の言に従い、自分は悪天候の中でも重機を出せそうな業者に、手あたり次第連絡をつける。

 こうして、後の世にいうオペレーション・ロックは始まった。



「ジンさん、宜しくお願いします!」

「おお! 一世一代の大仕事、やってやらあ!」


 威勢よく重機に乗り込んだジンさんが沢から流れる川に隣接している崖上へと向かっていくのを、自分は祈るような気持ちで見ていた。


「崖上の岩を落として水の流れを変える、ですか……」

「うむ、今の我々にできることはそれだけだ」


 監督長の提案した作戦。人の力だけでは及ばずとも、重機という科学の力と、岩という自然の力を合わせれば克服できるという言葉。それに乗ってくれた重機業者のジンさん。そこに連絡をつけた自分。

 どうかこの連携がうまくいってくれよと、自分は只管祈り続ける。


「こちらジンだ! 崖上についた! 今からやるぞお!」


 無線機を通して連絡を入れてきたジンさん。やがて、自分たちの視界にもジンさんの重機が岩を押し始めるのが見え始める。


「たのむ、うまくいってくれ!」

「どうか住民を救うために……!」

「いったれえええ!」


 自分と監督長の祈りと、ジンさんの気迫が届いたのか、果たして重機で押されていた岩は見事に崖下の川へと落ちていき、水の流れを変えた!


「おっしゃあ! どうだ、監督長サンよ!?」

「お見事です! これで多くの住民が救われる……!」

「やりましたね! ジンさん! 監督長!」


 自分たちはやり遂げたのだ! 岩を落として沢から流れる水の流れを変え、住民を救うというオペレーションを!

 この歴史の表に出ない作戦が、地元では後の世まで偉業として語り継がれることになろうとは、この時の自分たちは想像すらできていなかったのであった。


2019/03/03 08:05

CHIHIRO_F

若い主人公とその道のベテランの連携が、地元住民の危機を救う…! 三題噺だとなかなか見ないスタイルの、手に汗握るスペクタクル掌編ですね。面白かったです。
ともすれば岩が沢を堰き止めて、事態が深刻化するのでは…という気持ちにもなったので、そのリスクを挙げたうえで、ジンさんの長年の経験と神業で解決!という流れで読めたら、よりいいカタルシスに導けたと思います。
2019/05/07 10:02

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