『プロローグ』
家のこたつでぬくぬくしていた少女は、そのまま寝入ってしまい、目を覚ませば、そこには広い海が見える。
「どこだここ?」
十八歳前後の少女は目覚めきっていない頭をフル回転させていた。見たことがない風景に恐怖を感じつつ、辺りを歩き回ることにする。海は青く、キラキラと輝いており、こんな状況でなければ少女も今の現状を楽しんでいただろう。
「お嬢さん、こんな朝早くどうしたの?」
声をかけられ、少女は声の主を探す。海岸には誰もおらず、首を傾げていると、また声が聞こえてくる。
「こっち、海よ」
「えっ?」
海を見ると、そこには絵本で見たことがあるような美女がいた。頭にはキレイな貝殻をつけ、胸も貝殻で隠していた。足のかわりに尾ひれがあり、少女はここが自分のいた世界とは別の場所だと感じとる。
「なにか探しているの?」
「家に帰りたくて」
「なるほど、迷い人ね」
人魚は一人で状況を把握し、うなずいていた。少女は自分の置かれた状況を理解できずに呆然と立ちつくしてしまう。
「それなら、海岸沿いを歩いていくといいわ、青い屋根の家に賢者が住んでいるから、その人を頼りなさい」
人魚に言われ、少女は海岸沿いを歩く。道路は整備されてはいるがコンクリートではない。そんな道を車らしき乗り物が走っており、少女はなんだか不思議な気分になる。そんな海岸沿いを道なりに歩いていると十分ほどで人魚の言っていた家を見つける。
「すみません。ごめんください!」
ドアをノックし、一歩下がると、けだるげな声がし、ドアが開いた。そこには賢者とは思えない風貌をした中年男性がいた。無精髭を生やし、ワイルドな彼を見た少女は目を丸くした。
「デリヘルは頼んでねぇよ」
「ち、違います! 海で人魚にここに来たらいいって」
「あー……で、何?」
「帰りたいんです」
その一言で状況を理解した男性は深いため息をつきながら、少女を家に入れる。
「異世界から来たんだろ?」
男性は適当にソファーの物を床などに置き、少女に座るよう指差す。少女はソファーに座り、彼のことをじっと見つめた。
「結論から言うと百万ドル貯めたら帰れるぞ」
「百万ドル! そんな大金どうやって」
「知らぬ。女だし、体でも売ればいいだろ」
男は笑いながら、たばこに火をつけていた。少女は深いため息をつきながら、百万ドル……。と小さく呟く。
「手助けくらいならしてやるよ。名前は?」
「ユカリです。青樹ユカリです。あなたは」
「俺はユナ。それで、どう金を稼ぐ?」
ユナはたばこを灰皿に押しつけながら、ユカリに問う。だが、ユカリは何をすればいいのかわからず、うつむき黙ってしまう。彼はため息まじりに口を開いた。
「国家の認める魔女または賢者になれば……」
「え?」
「百万ドルは帰るために必要な魔法を依頼するためのものだ。だが自分がその魔法を習得すればどうだ?」
「帰れる……」
「だが、その道は険しいからな。覚悟しろよ」
話の流れで魔女か賢者になることになったユカリは不安でいっぱいになっていた。だが、ユナは違っており、何かを期待した顔をしていた。