南雲あや

文字数 1,403文字

南雲あや
2018/02/16 01:41

nakumoaya

今日はバレンタイン――なわけだけど、チョコレートなんて1つも貰えなかった。

今年もただの平日として終わったわけだ。

少しは期待していた。


今日はバイト入れたわけだけど、見事にシフトメンバーが男しかいなかった。

こんな日には顔を合わせないようにしようという女連中の考えはよく分かる。

もし俺が女だったら、同じ行動をとる。

興味ない男にわざわざ義理チョコを渡すのも面倒くさい。

で、バイトの同期にそれとなく聞いてみたらロッカーにチョコレートが入っていたらしい。俺のロッカーには1つも入っていなかったけどな。いつか自分で買ってたチョコしか入ってなかった。紛らわしいことをした過去の自分の殺したい。


あ、やべえ、わりと堪えてきた。

バレンタインチョコ1つも貰えなかったという事実に。

義理でいいから欲しかった。


あ、やべえ、なんか目から汁が出てきたわ。

……バレンタインチョコ貰えないからって泣くとか恥ずかしすぎるだろ。


今日が終わってしまうのが惜しくて、公園なんかに来てしまった。

公園は幸いにも誰もいなかった。



「お兄さん、どうしたの?」


「……あ?」


顔をあげると、近隣の制服を着た女の子がいた。

ドキッとしてしまう、かわいい。


「泣いてるの? なんで? つらいことでもあった? 桜が、お話聞いてあげる」


「桜?」


「あっ……ううん、なんでもない、今のはなし!私が、聞いてあげる」


ああ、桜というのは名前なのか。

高校生にもなって自分のこと名前で呼んでるとか……かわいいな。


 

「で、お兄さんはどうして泣いているの?」


「なんでもねえよ」


「うそ、何でもない人は泣かない! 

 あ、分かった、お兄さん、彼女に振られたんだ?」


「はっ!? 振られてねーし! むしろ彼女なんていねーから」


「彼女もいないなんて……お兄さん寂しいなあ それでも大学生?」


「うるせーな……桜ちゃんは恋人いるのかよ?」


「桜ちゃん言うなし! ていうか初対面なのに馴れ馴れしいよ!」


「ははは、今俺はやさぐれてるからな。関わって来た桜ちゃんが悪い」


「お兄さんが彼女いない理由、分かったよ……あと、その涙の理由も」


「だから、泣いてねーって」


「はいはい、そんなお兄さんに、これあげる。手、出して」


言われた通りに手を出す。

その中に落とされたのは、可愛くラッピングされた袋。


「ハッピー、バレンタインだからね。義理だけど。余ってたから、あげる」


それは紛れもないチョコレートだった。


「欲しかったんでしょ?」


そう言って意味ありげに満足げにニヤニヤと笑っていた。

俺は、素直に思ったままを口にする。



「そうだな……これが欲しかった。サンキュー、桜ちゃん」


「だから、桜ちゃんって言うなし!」


その反応が可愛くてまた笑ってしまう。


「ちなみに、それ手作りだから。お兄さん手作りチョコとか初じゃない? 

 しっかり、味わって食べなよね。」


「うん……パクッ……」


「って、もう食べてるしっ!!!」


甘い、ほんのりビターな味が口に広がる。

今の心情では涙が出そうになるほど優しい味。


「うん……美味い、料理上手いんだな、桜ちゃん」


「それくらい料理なんて言わないし……って、桜ちゃんは禁止! もうっ……」


「ははは、ごめん」


「って……お兄さん、泣いてる?」


「っ……!? 泣いてねーよ」


そう言ったけど、上手く誤魔化せたかどうかは分からない。


この時出会った見ず知らずの桜ちゃんは――

俺にとって、例えるならそう……「天使」みたいな女の子だった。


2018/02/16 01:41

nakumoaya

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