三題噺のお部屋
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転校したばかりでクラスの皆とあまり馴染めず、1人でいた時に彼は話しかけてきたのだ。)
あ、はいそうです……
叙述トリックとか小説ならではって感じで
クラスの中であまりこういう話をする機会がないからさ 珍しくて水瀬さんと話してみたくてさ
そう!主人公が実は犯人だったとか、ミステリーに限らずキャラクターが実は人間じゃなかったとか、映像では難しい小説ならではの表現ですよね! ——ぁ、すみません。急に大きな声を出してしまって……
——それに水瀬さんずっと暗い顔してたから、楽しく話せて良かった
俺、学級委員だからさ、クラスで大変なこととかがあれば相談してね。
——そんなどこにでもあるようなことが、私には凄く嬉しかった。
それは転校してから何度か、彼のクラスの皆への気遣いをみていたからだろう。たぶん、彼は私でなくても同じように接したはずだ。
そう、私にはそんな彼がとても眩しくみえたのだ。)
(今思えば、私は以前より明るく振る舞えるようになった気がする。 クラスの皆とも普通に話すようになった。)
結果は案の定……)
凶だ……
(おみくじの内容は普段はあまり信じないのだが、このときだけは、不思議と頭の中に引っかかった……
そしてそれは、最悪の形で叶うことになる。後悔とともに……)
何故、こんなに胸が苦しいのだろう。
わからない……いや、わからないふりをしていただけだ。
彼と話す時間が楽しくて、気づかいに満ちたあの笑顔にいつも安心していた。好きだった。
……否、最初に話す前から、テニスも人一倍努力しているのに、他者に対して優しい、彼の姿に目を奪われていた。
——けれど、私は自身のことで精一杯で、誰にでも優しい彼に頼ってばかりで、彼に返せるものが何もなかった。否、否、事実ではあるが、それは好きだと彼に言えなかった理由ではない……単に今の時間が終わってしまうかもしれないのが嫌だっただけなのだ。——どこまでも臆病な私。泣いた。ただ泣き続けた。
——ああ、でも、今まで告白しなかったことを凄く後悔しているけれど、今はそれ以上に怖いものがある——
——きっと私は彼が留学して離れたらもうこの気持ちを伝えられない……!——
皮肉なものだ。離れることを意識したら、こんなにも簡単に勇気が出るなんて。これも彼がくれたものだ。)
俺はテニスの息抜きに近くの図書館にいた。目当ての本を探していると、小学生ぐらいの男の子に本を手渡している彼女がいた。)
最初にあなたが本を借りにきたときに話したときなんてあたふたしてたのに
だから、彼女が転校してきたときは驚いたし クラスに馴染めていなかった暗い顔している彼女をみて、学級委員だった俺はどうにかしなきゃいけないと思った。いや、違うな。俺は単に彼女の雪が似合いそうなあの笑顔が曇ってるのが嫌だったんだ。実際に話してみて凄く話が合ったし、時折、笑顔で話すその姿をみてこっちまで笑ってしまうときもあった。
テニスの試合で勝てなかったときも、彼女の顔をみているだけで、楽しくてしょうがなくて頭の切り替えができたり疲れを忘れられた。)
この気持ちを自覚した頃には留学の時期が決まっていた。小さい頃からの夢であるプロテニスプレイヤーには絶対になると決めていた。だから留学のことも迷わなかった。けれど、今は胸に棘が刺さっているように苦しい。 )
よし!
彼が眩しかったのは彼を通して自分の理想をみていたからだ。何があっても努力し、突き進む。
そして、それと同じぐらい、他人を気づかうことが出来る。 そんな彼に少しでも近づきたい。臆病な自分を変えたい、そんな彼が好きだ。
だから——)
私が一瞬固まったように、彼も目を白黒させて驚いて固まっていた。
それに——それでも、好きだって言いたかったのは十分伝わったから
必ず、帰るからさ
それまで待っていて欲しい
ええ、待ってます!
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