三題噺のお部屋
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wick-reacher
夕暮れの迫るある日のこと。僕は沢の近くを歩いていた。ここは僕のお気に入りの秘密の場所。他にもこの辺りを歩いている人が居るかもしれない。でも、僕は他の人を見かけたことは無い。水の中から顔を出している岩を見つめながら考えていた。
石と岩の違いは何だろうか?
こんな時にはそんな問いが思い浮かぶ。僕は身近にあるものの名前、その意味、その由来をあまり知らない。同じ種類でも大きさや形で名前が異なる。ほとんど同じものでも違う名前を持っていることもあった。今の時代、調べようと思えばいつでもどこでも調べられてしまう。しかし、今の僕はそう言った便利な道具を持っていない。ここに来るときは近くにあるコインロッカーに預けてしまうのだ。ちょっとだけ浮かんだ問い。こういうものはメモしておかないとすぐに忘れてしまう。いいアイディアなんかが浮かんでもすぐに消えてしまうものだ。そうであっても、ここには色々なことが可能になるデバイスを持ち込まないようにしている。
では、どうするか。
後で調べる時まで憶えていることを願う。そして、今は適当に頭の中で遊んでみるのだ。
石と岩。違いがあるとすれば大きさだろう。石は小さい。岩は大きい。岩は大きくてゴツゴツしたイメージだ。でも、こんな風に小さい石を岩と呼んではいけないのだろうか? もしも、僕だけの秘密の決め事として、この手に握っている石を岩と呼んではいけないのだろうか?
ボーっとしながら歩き続け、考え続けた。何を考えたかすら忘れてしまった。そんなゆったりとしたある日の、夕凪の空。何かが空を飛んでいくのが見えた。光を帯びていたようにも思う。
飛行機か。
飛行機にしては挙動がおかしかった気もする。上下左右に動いていたようにも思う。とても素早かったようにも思う。僕が見たものは本当に飛行機だったのだろうか?
歩くほどにさっきみたものの正体が気になって来た。もう一度さっきと同じ位置に立って空を見ようと思った。気が付くと、僕はコインロッカーの前に立っていた。
ポケットからコインロッカーの鍵を取り出そうとする。そのポケットには小石が入っていた。何か重大なことを見落としている気がする。とにかく、明日もあの沢へ行こう。そんな決意を持ちつつ荷物を取り出し、家に帰ることにした。携帯音楽プレーヤーを取り出し、お気に入りのバンドを選ぶ。イヤホンから流れる音楽。それと共に歩いて行く。不意に、あの小石に名前を付けようと思い立った。
可能性の岩
CAN ROCK
(終わり)
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