三日月を横に倒したようなフォルムのウィンドボードを使って学校に行くのは、今日が初めてだ。
ウィンドボードは自然の風に乗って移動のできる乗り物なのだけれど、簡単に想像できるようにかなり危険だ。今では常用化しているが、事故も多い。
風が止むとウィンドボードごと落ちてしまうし、強風だと制御がきかない。それに対応して、落下時にエアバックが作動するようになり、ペダルをこぐことで自家発風できる機能が付いた。しかし、10~60歳という年齢制限がかけられている。
僕の両親は堅い考えを持っていて、年齢制限を少し過剰に受け入れ、僕に12歳になるまで1人で乗ってはならないと言われていた。しかしそれも今日までだ。
僕はウィンドボードに乗り、ペダルをこぎ始める。
フウォォォォォオオオン!
という音を立てて、機体が徐々に持ち上がっていき風に乗る。今日は一緒に親が飛んでいるわけではない。その事実と浮遊感に膝が笑いそうになる。
学校は地下鉄で2時間かかる距離にあるが、ウィンドボードで良い風をつかめれば1時間と掛からないはずだ。
屋根よりも高く住宅街を飛んでいくと、連立するビルが目始める。あそこを抜ければ学校だ。ここまで20分もかかっていない。今日は絶好のウィングボード日和だったようで、とても良い風が吹いていた。
ビルの隙間風は、住宅街の上を吹く風とは違い流れが速い。少し気を抜けば、全く違う目的地にたどり着いてしまうのだ。
僕は鋭く吹く風を掴んで、ビルの七階ほどの高さを飛ぶ。ビル街では自分のほかにもウィングボードがたくさん飛んでいる。出社や営業など、ウィングボードは短距離の移動に最も優れているからだ。
僕は大人のウィングボードに衝突しないよう、念のため少し高度を上げた。
しかし、それがいけなかった。
僕が今まで乗っていた風とは全く別の風が、ビルの上部には吹いていたのだ。しまった、そう思う暇もなく僕のウィングボードは勢いよく流されてしまった。
一時間ほどあらがえることも出来ずに流されていくと、どこかわからない畑の上に僕は降りた。
ウィングボードの弱点。それは、長距離の移動には向かない、ということ。
僕はおもむろに携帯電話を取り出すと学校へと電話をかけた。ウィングボードで登校しようとしてのだが、誤って別の場所についてしまったことを伝えた。
先生は笑って許してくれたが、最後に一つだけ念押しをしてきた。
「ウィンドボードを使わずに、急いで学校まで来るように」