「謎解きを盗み聞き」 海月海星
今日は、外が大雨なため、客がかなり少ない。それでも、僕は一応ハンドミルを使って、豆を挽いている。今は、ひとりも客がいない。予報では雷も落ちると言われているから、これからは、客があまり来ないだろうか。
そう思いつつも、コリコリとハンドミルを挽いていると、2人の客が入ってきた。高校生の男女だ。男子の方は、背が低く、童顔で涼しげな目と、さらさらの黒髪が特徴だ。女子の方は、さらに背が低く、パッチリとした目と、肩まである綺麗な髪が特徴だ。ふたりとも、この辺にある高校の制服を着ていなかったら、中学生だと思っていただろう。
会話を聞くに、雨が酷くなり過ぎなので、少し収まるまでカフェで時間をつぶそうとしているらしい。
そのとき、外で雷が鳴った。おびえる女の子を、男の子がなだめる。なんだろう、不思議とカップルという感じはしない。
席に着き、ふたりはホットコーヒーを注文した。僕はそれをいれるために、カウンターに戻る。客がその1組しかいないため、会話がよく聞こえる。高校生男子にしては高めの声で、男の子が言う。
「やっぱり、あの事件の謎は解けないよ。TVででる情報だけが全部じゃないだろうし、一高校生の僕らには解けっこないよ」
何やらふたりは最近この辺りをにぎわせている、飲食店の看板に悪質な落書きや、損壊をしている事件について話している。うちの店も他人事ではないので、ついその会話を聞いてしまう。
「朋巳くんならいけるよ! 傘の謎も、幽霊の謎も、この間の宝の地図も見事に解いて見せたじゃん!」
朋巳くんと呼ばれた男の子は、苦笑いを浮かべて言う。
「あれは、亜季ちゃんとかも手伝ってくれたし……。ヒントが探せばあるところにあったから解けたんだよ。でも、今回は犯罪なんだから、僕らがヒントとかを探しに行くのは、危険すぎるよ。警察に任せようよ」
そのあたりでホットコーヒーをだすと、2人は軽く会釈して、コーヒーに口を付け、会話に戻る。亜季ちゃんと呼ばれた女の子が、少し残念そうな顔をしながらも言った。
「たしかに、危険な目にあっちゃうかもしれないもんね……。わがまま言っちゃってごめん」
「全然大丈夫だよ。真相を知りたい気持ちもあるしね。TVや新聞をみて、何か気づいたら考えてみるよ。奏太の家の店が、狙われたら大変だしね」
男の子がそう言うと、少し重くなっていた空気が明るくなる。ふたりとも笑顔だ。
「たしかにそうだね。じゃあ奏太くんの家のお店が狙われる前に、お巡りさんに犯人捕まえてもらわなくちゃ!」
「きっと大丈夫さ。日本の警察は優秀だからね」
ふたりはコーヒーを飲み干し、ふと窓の方をみる。
「雨、少し弱まったかな」
「うん。帰るなら今だね。電車も動いてると思うし」
「もし、動いてなかったら、僕の家に来ればいいよ。お母さんに車で送ってもらおう」
「たぶん大丈夫だと思うけど、その時はお願いするね。ありがとう」
「どういたしまして。さあ行こうか」
2人は会計を済ませて、店を出る。なんだか、2人の会話が印象に残る。自分に全く関係がないとは言えない話であり、唯一の客だったこともあるが、なにより2人の雰囲気が、なんだか微笑ましかったのだ。
(あの子たちはずっと仲良くいてほしいな)
などと思いながら、2人がいた席を片付けた僕は、再びハンドミルで豆を挽き始めた。