「結婚しよう」彼女のマイと近所のコンビニに行った帰り道に手におでんの入った袋を持ちながら僕は言った。
そうするとマイは驚いた顔を一瞬、喜んだ顔を一瞬した後、突然怒り出した。百面相とはこういうことかと思った。
「なんでアキラっていつもそうなの!? 全然ロマンチックじゃないよ! 普通プロポーズってきれいな海岸をかっこいい車でドライブした後、百万ドルの夜景を見ながらするものじゃないの? 一生に一度なのに!」
と、すごい勢いでまくしたてられたので僕は言った。
「僕、車持ってないしここは山梨だから海もないよ。この時期に海って寒そうだしね。それに、こんな田舎で百万ドルの夜景なんて見れないよ。日本だからドル換算じゃないしね。ドラマの見すぎだよマイは」
思ったことをそのままいったつもりだったがマイはあきれたような顔をして言った。
それにしてもなんで今なの…。手におでんの袋持ってるし…。アキラ私に告白するときだって高校のときの下校のバス待ちで急にいってきたし。もっとムードってものを大事にしてよ! 指輪もないし」
「指輪は家に置いてきちゃったから後で渡すよ」
そう言うと彼女はさらにあきれて、
「そういうことじゃなくて! 私が言いたいのは、なんでアキラは告白もプロポーズも全然なんでもないときに言うの? すごく嬉しいけど、もっとロマンチックなのがよかったの!」
そう言われると僕はノータイムで答えた。
「今、思ったからだよ。告白した時もそう。あの時、マイと付き合いたいって思ったから言ったんだ。僕は、ロマンチックじゃなくてもマイとこういう当たり前の日常を幸せに過ごしたいんだ」
「アキラ……」
うるんだ瞳でマイは言った。
「もう一度言うよ。結婚しよう」
「アキラってば……。ううん、何でもない。はい、お願いします」
「ありがとう」
心の中で僕は「助かった」と息をつく。マイに怒られながら確かに失敗したと思った。
マイに告白した時も、バス停でたまたま二人きりになってしまい、ただバスを待つ時間が長すぎて緊張していたたまれなくなり、つい思いをぶつけてしまったのだ。
プロポーズもいつ切り出そうかと思っていたがこんな時に言うつもりはなかった。
ただ、その思いが強くなりすぎて言ってしまったのだ。そういう意味では僕は嘘は言っていない。マイはなんだかんだ素直な子だから僕を許してくれた。
プロポーズが成功した今だから言えることだが、心の底から僕はこんなマイのことが好きで、ついムードもないときに思いを伝えてしまうのだなと思った。
これからは、もっとムードに気を付けよう。
でも、次のこういう機会っていつなのかなと歩きながら考えた。