第4章 危機 -  中津道夫(3)

文字数 1,007文字

              中津道夫(3)


「もうね、凄かったみたいですよ。やりたい放題した挙げ句に、きっとあっち
 こっちひきずり回したんでしょう。身体中がぐじゃぐじゃでね、検視官もさ
 んざん嘆いていましたわ……」

 しかし、直接の死因ははっきりとはせず、現在も調査中とのことだった。

「死に至るような外傷がないんで、まあいわゆるショック死……心臓発作なの
 かも知れません。ただね、ここからが普通じゃないんだ。いいですか? 彼
 女の両手と両足なんですが、手首足首できれいに切断されていたんですよ。
 なんでそんなことをしたんだか分からないが、完全に息絶えて、かなり時間
 が経ってからやったらしい。わざわざ一度マンションに運び込んでおいて、
 さらに後から手足を切り取った。とにかくそんなわけで、彼女の手足だけは
 いまだ行方不明なんですわ……」

「あの……」
 
 武井はそこでふと、老婆の言っていた言葉を思い出す。

 ――高熱で焼かれちまって、手足なんて骨だって残ってやしないのさ……。

「その、切断された手足ってのは、焼かれてしまった……とか、なんでしょう
 か? 」

「まだ発見されてないので、今の時点ではなんとも言えませんね。しかし、わ
 ざわざ切り取ってから焼くってのはどうですかね? 指紋照合を防ぐためな
 ら、指先だけを切ってしまうか、社長さんがおっしゃるように、指先だけ焼
 いてしまえばいいわけだ。しかし実際は、そんなことする理由自体がないん
 だな……」

 そこで一時、中津はひと呼吸置いて、少しだけ辛そうな顔を見せる。
 
 しかしすぐに憤懣やる方ないといった表情へと戻り、
 
 吐き捨てるように言葉を続けた。

「だいたい意味がないんですよ、そんなことしたって……彼女の身元ははっき
 りしてるし、なんたって運び込まれたのが、本人の自宅なんですから。犯人
 は彼女の身元を隠そうなんて思ってはいなかった。それなのにですよ……か
 なり経ってから思い出したみたいに、わざわざマンションへ舞い戻り、なん
 で両手両足を切り取ったりしたんでしょうか? そんな必要がどこにあった
 のか、それが......まるで分からないんですよ。そして、いいですか? 彼女
 はね......ここで働いていたんだ。社長さんはきっと、ご存知ないっておっし
 ゃるんでしょうがね……」
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