第7章 はじまり - 依頼 

文字数 877文字

                 依頼

 
 優子と岡島が通された応接室は、

 ビルの外観からは不釣り合いなくらい立派な空間で、

 その内装や調度品は、まるで高級ホテルのスイートルームを思わせた。

 そして部屋で待つ2人の前に、

 なんと、ビルの前で道を尋ねていた人物が現れる。

 相変わらずパイプを手にするこの男こそ、

 劇団の主宰者であり、ドッキリ倶楽部の発案者でもあるのだと言った。

 劇団ときわ、またの名を〝ドッキリ倶楽部〟。

 もともとは、立ち上げたはいいが、

 まったく客の入らない劇団存続のため、

 仕方なく始めたアルバイトのようなものだったらしい。

「そう、ちょうどお宅の奥さんが入団した頃だから、もう15年くらいになる
 のかな……たまたま観たマイケル・ダグラスの映画が強烈なインパクトで
 ね、わたし、完全にハマっちゃったのよお」
 
 そんな映画がヒントになって、彼はその妙案を思い付いた。
 
「もうこれだ! って思っちゃって。それにね、中途半端な演技力じゃ務まら
 ないから、お芝居の勉強にもなっちゃうのよね……」
 
 まるで、女性のような口ぶりで話すその人物は、

 脚本から演出までを手掛け、

 たまに自ら出演することだってあるのだと言う。

 そして、彼の思惑は見事に当たった。

 はじめは、誕生日を迎える友人へのサプライズや、
 彼女にいいところを見せたいがための小芝居程度のことだった。

 ところがそんなことへの評判が、

 その頃一般的になりつつあったネットに流れ出し、

 舞い込む依頼内容もどんどんエスカレートしていく。

 そんなものは往々にして、

 内容の深刻さゆえ慎重にならざるを得なかったが、

 その分、格段にいい稼ぎにもなっていた。

「でもね、ネットでちょこちょこ書かれているうちは良かったのよ。ところが
 週刊誌に出ちゃってね、それから、いろいろ面倒なことにもなって……」

 その頃には、劇団もそれなりに評価を受け始めていたこともあり、

 彼らはドッキリ倶楽部を一時封印する。

 その後は、信頼できる人物からの強い依頼の時にだけ、

 場合によっては引き受けることもあるのだと彼は続けた。
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