第7章 はじまり - 誤算

文字数 1,238文字

                  誤算


「奥さんすみません、セキュリティ解除の操作ボックスは、きっとここだけじ
 ゃないですよね? 」

「あ、はい。確か他にも……あったと思います。えっと確か……」

 玄関脇に設置されたものを指差し、男がそんな質問を投げ掛けてくる。

 玄関以外のものを触ったことがなかった優子は、

 後の2台を見つけ出すのにそこそこの時間を要してしまった。

 それでもなんとか見つけ出すと、

 彼らは操作ボックスのカバーをさっさと外し、

「これで、無線操作ができるようになりましたから、もうどこからでも、セキ
 ュリティ状態のオン、オフが切り替えられますよ……」
 
 30分も掛からぬうちにそう言って、さっさと別の作業に行ってしまった。

 その日、中津をはじめ十数人ものスタッフが、武井の屋敷を訪れていた。

 そして今、優子の周りでは、男たちが部屋という部屋をビデオ撮影し、

 場所によっては隅々までメジャーを当て、そのサイズを測ったりしている。

「実際に工事を行うのは、ご主人が事故を起こしてからになるわ……あ、事故
 って言っても大丈夫よ、ほんの2、3日入院してもらうだけですから。それ
 もこっちの用意した救急車に乗って、仲間内の病院の見立てでね。実際は、
 入院の必要もない軽い事故なの……」
 
 そう言っていた中津も、

 微塵も予想していなかった結果が待っているのだった。

 武井の調査資料が優子の元へ届いたまさにその夜、

 愕然としている優子の前に、いきなり中津が現れた。

 ソファーに腰掛け、呆然と中津を見上げる優子に向けて、

「ごめんなさいね、どうしようかと思ったんだけど、やっぱり電話より、お顔
 見ながらお話した方がいいと思って……。驚いたでしょ……でも、まずは1
 人で見た方がいいっていう判断なの。どう? 今はもう本気でやってや
 る! って感じでしょ? さあ、泣いても笑っても、ここからが本番なの
 よ!」
 
 そう言ってから、彼は優子の隣に腰掛け、

 その後の展開を事細かに説明していった。

「じゃあ、わたしはもう行くから。とにかく、多くを語っちゃダメよ。何を聞
 かれても、そのファイルを見てって言って、すぐに出てきちゃえばいいんだ
 から……」
 
 そう告げて、中津が姿を消し去ってから6時間後、

 何も知らない武井が帰宅。

 それから5分と経たぬうちに、ボストンバッグを手にした優子が出てきて、

 彼女は大通りまでを1人で歩く。

 するとさっきまで武井に張り付いていた尾行者たちの車が現れ、

 彼女は無言のままその車に乗込むのだった。

 さらに2時間後、深夜担当と交替した2人組みが見守る中、

 武井が再び姿を見せる。

「おい、出て来たぞ……」

 やっと夜が明け始めたというそんな時刻に、

 突然大きな門が音を立てて動きだし、武井の車がゆっくりその姿を現した。

 2人は武井の車を尾行して、朝日の差し込む柴多の家までやってくる。

 かなり距離を取って車を停めて、

 武井が再び走り去ってもしばらくそのまま動かなかった。
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