第6章 反撃 - 追跡

文字数 1,364文字

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 本当のところ、どこからどこまでが〝そいつ〟の仕業なのか? 

 それさえも分かっていなかった。

 ただとにかく、武井を死ぬほど恨んでいる誰かが、

 桁外れの金を使って彼を殺人犯に仕立て上げようとした。

 そしてそんな企みは、今や完全に成功したと言えるだろう。

 ――きっとね、期待してるんですよ。

 ――カッとなってあなたを殺しちゃう、なんてことをね。

 実際殺されはしなかったが、まんまと武井は女を刺し殺してしまった。

 そう呟いた加治の言う通り、

 この次は本当に殺されてしまうのかもしれないのだ。

 しかしいくら考えても、そこまでのことをされる覚えなどまるでなかった。

 だからといって、このまま何も反撃せずに、

 ただ白旗を振るなんてことも絶対にしたくない。

 とにかく、何か手がかりになるものが欲しかった。

 武井は翌朝一番の列車に乗り込み、残っていた金で安いシューズを買った。

 その足で、山瀬美咲が住んでいたマンションまでやってくる。

 飯田良子のマンションなど知らなかったし、

 知っていたとしても、入り込むことなどできるわけがない。

 こんなことをするのは、致命的な行為にも思えたが、

 他の手段どれを思い浮かべても、

 まず向かうべきは美咲のマンションだと思えるのだった。

 前回はあまりのショックに、寝室とキッチンをしっかり調べて、

 後はざっと見回しただけ。

 だからまだ調べていない部屋から、何かが出てこないとも限らない。

 とにかく、山瀬美咲は死んだのだ。

 そしてニュースでは、場所はともかく、

 美咲の死体が見つかったのも、

 飯田良子を刺してしまったあの日なんだと言っていた。

 ――じゃあ、死んだのはいつだ? 死因は? 絞殺か? 

 ――それともやっぱり刺し殺されたのか?

 詳細なところまでは伝えていなかったが、

 とにかく他殺であるのは間違いない。

 武井が一時にせよ愛していた女と、

 その後もしかしたら愛したかも知れない女が、

 立て続けにこの世から消え去った。

 ただ誰が何の目的で、飯田良子と山瀬美咲、

 この2人の死体を入れ替えたのか? 

 警察にそんな事実を隠し通すためには、

 ダイニングで大量に流れ出た血を処理しなければならないはずだ。

 そもそも、池袋のマンションで発見されたのは、

 本当のところ誰だったのか? 

 飯田良子じゃないからこそ、

 わざわざ両手両足が切り取られていたんじゃなかろうか?

 ――そもそもあの刑事は、いったい何をやっているんだ!?

 あの日、中津は突然屋敷に現れ、

 発砲までして室内に入り込んだはずなのだ。

 それなのに、今やこんなことになっている。

 それとも警察にさえ手に負えない何かが、

 あの後、武井の屋敷で起きたということなのか? 

 もし、ここ美咲のマンションで何も得られなければ、

 後は一か八か、捕まるのを覚悟で加治や富田のところへ出向くしかない。

 ――警察が、張り込んでいるだろうか?

 それどころか、今だ部屋の中に刑事がいたっておかしくはない。

 ――ただとにかく、部屋に入れば着替えはあるし、多少なら金だって……。

 確かに、美咲のものは何から何まで見事消え去っていた。

 けれど武井の服や時計など、

 いざという時のために預けてあったものは、

 見たところ大凡そのまま残されていたのだった。
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