第8章 収束 - 終演へ(4)

文字数 498文字

                終演へ(4)


 一方、まさしく同じ頃、スナックの2階から、

 宇佐美が同じ光景を目にして、

「あいつ……ジャケット置いてったのか……? 」

 そう言うと、窓からの景色に背を向け、

 床に落ちていた武井のジャケットを拾い上げた。

 そして目の前に立つ麻衣の顔を覗き込み、

 少しだけ戯けた声で言うのである。

「今夜は結構冷えるから、どうだ、これ、あいつに持ってってやったら? あ
 いつ……サンダルも履かずに逃げ出したんだろう? 」

「何言ってるの? わたしたちの出番はここでお終い。もう、そんなのどっか
 に捨てちゃってよ」

「それにしてもおまえ、もし俺がもうちょっと遅かったら、どうするつもりだ
 ったんだ? 」

「どうもこうもないじゃない! ねえ、そんなことより由岐ちゃんのことよ、
 いったいどうして、そこまでのことになっちゃったの……? 」
 
 それでも顔だけは真剣な亭主に、麻衣は慌ててそんなことを言って返す。

 けれど幸い宇佐美の方も、

 そう言う麻衣に答えてからは、

 一切武井のことに触れようとはしなかった。
 
 そして待ちに待ったラストシーンが、

 後半日とちょっとで訪れようとしていた。
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