第7章 はじまり - 筋書き

文字数 1,128文字

                筋書き


 2週間後、筋書きが出来上がったとの連絡があった。

 優子と岡島が再び劇団事務所を訪ねると、

 十数枚亘る粗筋の書かれた原稿用紙を渡される。

「こんなこと、本当にできますか? 」

「あれだけのお金を使っていいんでしたら、いくらでも……ただ、大変なのは
 これから。いろんなリアクションを想定して、それぞれ細かく台本を作って
 いくんです。まあ、もちろんいっぺんにじゃなくて、だいたいが同時進行な
 んですけどね……」
 
 読み終わってもなお、じっと原稿用紙を見つめたままの岡島へ、

 いくぶん丁寧な言い回しの答えが返った。

 そして今度は優子へ顔を向け、さらに真剣な声を上げる。

「それで奥さん、本当にいいのね、もしおやめになるんなら、今日が最後のチ
 ャンスになるわよ」
 
 その声に力強く頷く優子を見て、

 彼はそこで初めて、正式なる自己紹介を始めるのだった。

「それでは改めまして、わたくし、中津道夫と申します。これから1年間、い
 ろいろと大変だけど、力を合わせて頑張っていきましょうね! 」
 
 中津は力強い声と共に岡島を見つめ、

 首を少しだけ倒して纏わり付くようなウインクをして見せた。

 それからさらにひと月が経って、

 関係者が一堂に会しての説明会が開かれた。

 そこで優子は、岡島の妻として初めて愛を紹介される。

 愛を初めて知ったのは、優子がまだ高校生の頃で、

 愛の父親が通勤途中に倒れた時、

 優子が偶然居合わせたことがきっかけだった。

 もちろん、愛の結婚はずいぶん昔、

 本人からの手紙によって知らされてはいたのだ。

 ところがその相手が岡島なんだということを、

 優子はつい最近になってようやく知った。

「愛さん、こんなに大勢の人が、劇団には所属しているんですか? 」

 ホール壇上に向かって座るたくさんの背中を見つめ、

 優子はそんな驚きの声を上げた。

「優子さん、これはあくまでもコアメンバーでね、これからもっと増えて行き
 ますよ。大半は、よく事情を知らないアルバイトなんですけど。ご主人の身
 辺調査が終われば、新しいメインキャストだって、追加されることになるん
 じゃないかな? 」
 
 常時劇団員として活動しているメンバー以外に、

 結婚して劇団を去ったが、

 ドッキリ倶楽部にだけは参加する元団員もいるのだそうだ。

「中津さんがどう話したか知りませんけど、実際、もう劇団ってのは表向き
 で、こっちの方がメインになっちゃってるんです。まあ、あんまり詳しいこ
 とは、わたしだってよくは知らないんですけどね」
 
 今や劇団の資産は、かなり莫大なものになっているらしい。

 そしてこの大ホールのある立派なビルも、
 
 劇団自身が所有しているものなんだと愛は言った。
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