第8章 収束 - 別荘〜撤収(2)

文字数 786文字

別荘〜撤収(2)


 気が付けば、別荘の芝地にはゴミ1つ残ってはおらず、

 テーブルなどが、置かれていた痕跡さえ分からない。

 ただ唯一、燃えている別荘だけが、

 さっきまでの出来事が、現実だったと明確に伝え残していた。

 まだ、何人かが動き回っていたが、やがて岡島と中津だけを残して、

 1台の大型バスと、3台のワゴン車に次々と乗り込んでいく。

 そのワゴン車3台の左右のドアには、

 白抜きで不気味なドクロのマークが描かれていて、その中の1台から、

「片付け完了ですけど、どうします? 乗って行かれますか? もうあんまり
 時間ないですよ」
 
 谷川康行が顔を出し、そう言って心配そうな顔を岡島へと向けた。 

 遠くで消防車のサイレンが聞こえるのだ。

 しかし岡島は谷川の声にまったく反応せず、

 じっと武井の背中だけを見つめている。

 一方武井はというと、やはり周りの変化に構うことなく、

 呆然と燃え上がる建物に目を向け続けていた。

 鉄串はまだその手に握られてはいたが、

 その先はもはや地面へと向いている。

 少し離れた場所にいた中津が、

 〝大丈夫だから〟といった感じで右手を掲げ、

 谷川に向けて2、3度振った。

 すると谷川は困った顔を見せ、さらに何事かを言い掛けるが、

 それより先に、山瀬美咲の声が響き渡った。

「大丈夫だって……あのサイレンの感じだと、ここに上がって来るまでまだ時
 間あるわよ。だからもうちょっとだけ、待っててあげてよ……」
 
 そんな美咲はアメリカ製の大型バイクに跨がり、

 もはや完全に武井の知っている女ではなくなっている。

「そうは言っても、あと10分くらいかな? それじゃあみんな、また近いう
 ちに会いましょう! 」
 
 彼女はそう言い残し、

 いかにも大型バイクらしいエンジン音を響かせ去っていった。
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