第9章 喪失 - 夢から覚めて(2)

文字数 715文字

              夢から覚めて(2)


 元より、表向きは自殺であるように見せかけておいて......

 ふたり同時に葬り去る、

 きっと、そんな計画であったのだ。

 どう考えても、優子自らの自殺であるなら、

 あそこまで回復の兆しを見せた母まで、

 道連れにしようなどと思うはずがない。

 ――すべては、俺の金が、目的か……それで2人を……。

 何もかもがきっと、岡島の差し金なのだ。

 岡島の......あの大げさに嘆き悲しむ姿も、きっと演技に違いない。

 優子は、彼の考え抜かれた芝居にまんまと乗せられ、

 結局、命まで奪われてしまった。

 ――いずれ、俺も殺すつもりなんだ。

 ただ、まだ俺にやらせたいことがある……だから、

 あそこでは死なせなかった……。

 武井はそんな確信を胸に抱いて、

 ふと、棚に置かれていた写真立てを手に取る。

 すべての力を失ってしまったように、

 ソファーへドスンと座り込んだ。

「母さん……」

 涙で霞んだその先に、

 寄り添い、嬉しそうに微笑む母良子と優子の顔がある。

 良子を東京へと呼び寄せ、施設へ入れる日の前日、

 優子は武井に黙って、突然、良子を家まで連れ帰った。

 そして、彼女を一泊させた次の日の朝、

「いい天気だし、庭で撮りましょうよ……」

 久しぶりに見せる明るい顔で、優子が突然、写真を撮ろうと言い出した。
 
「俺は、そんなことさえ拒否したんだ。たかが写真くらい……どうして……一
 緒に撮ってやれなかったのか……?」
 
 彼はふたりだけが写る写真を見つめ、その時の心情を思い出そうとする。

 しかし浮かび上がってくるのは、子供の頃の苦々しい思い出だけ。

 さらにそんな記憶の裏側には、彼の知らない、驚くべき現実があった。
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