第6章 反撃 - 別荘

文字数 1,043文字

                 別荘



 すぐ目の前にある光景、

 それはまさしく、不思議と呼ぶに相応しいものだった。

「うそ……だろ? 」

 震える吐息と共に、思わずそんな声が出る。

 ――これは夢か? それとも、俺がおかしくなったのか?

 まるで現実感がなく、映画でも観ているような感じそのもの。

 しかしその声はすぐ目の前から聞こえ、

 焦げ臭さの中に、肉の香ばしい匂いも漂っている。

 そんな中、まさに肉を焼いている男が、辺りを見回して大声を上げた。

「奥さんはどこにいる? もうそろそろ肉がいい感じなんだけど」

「今、おばあちゃんを呼びに行ってるの……そうだ、誰か一緒に行ってあげて
 くれる? 」

「ようし、俺が行ってやるよ! 」

 するとその声と一緒に、

 ずっと追ってきた背の低い男が、いきなり視界へと現れた。

「ごめんね! お疲れなのに……」

「そんなことないよ、ここへだってタクシーだし、今回はホント楽勝……」

 男の言葉に、女が親指を立てて笑顔で応える。

 そしてどこからともなく現れた小男が、別荘の中へと再び消えた。

 他にも、何人もの男女がそこにはいた。

 大きなバーベキューコンロを2つ繋げて、

 それを取り囲むようにたくさんのテーブルが並べられている。

 その周りでは、数人ずつの男女が思い思いの飲み物を手にして、

 皆笑顔を見せているのだ。

 それは本当に嬉しそうで、心からその集まりを楽しんでいるように見えた。

 ――あいつら……いったい何なんだ!?

 武井がそう思うのも無理はなかった。

 目の前にいるものの多くを、彼は少なくとも知っていて、

 それは見事、勢揃いという印象そのものなのである。

 高校の同級生で、会社の顧問弁護士だった岡島が、

 その中心で汗を垂らして肉を焼いている。

 その隣ではなんと副社長だった柴多芳夫が、

 彼のためにビールをジョッキへと注いでいるのだ。

 それだけではなかった。

 あの夜社長室で武井を恫喝してきた加治靖男も、

 まるで顔付きを変えて真っ赤な顔を見せていた。

 小男に声を掛けていたのもスナックにいたママだったし、

 そこはまさに知った顔だらけであった。

 山でデタラメを教え込んだハイカーのカップル、

 加圧ジムのトレーナー、

 パーティー会場で幽霊に追い掛けられ、

 挙げ句の果てにダイビングを見せていた男でさえ、

 今やピンピンして動き回っている。

 ――あいつ……生きてたのか? 

 ――じゃあ、隣にいるのは……まさか、あの時の幽霊?

 そう思った途端、彼はその髪の長い女の正体を思い出す。
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