第3章 恐怖 – 飯倉薫(6)

文字数 902文字

                飯倉薫(6)



 ――もしあいつらが、あの国のマフィアだとすると……。

 そうであるなら、きっとこのままで済むはずがない……

 そんな恐怖に突き動かされ、

 彼は振り絞るような声で薫に向かって話し掛けた。

「これはどういうことなんです!? さっきのやつら、いったい、あいつらは
 何者なんですか!? 」

「分かりません……わたしにも何がなんだか……」

「分からないって、あそこはあなたの家なんでしょ? だったら何が起きたの
 かくらい、想像がつきそうじゃないですか!? 」

 しかし薫はただただ首を横に振るだけで、

「ベランダで撃たれたのが、あなたのお父さんなんですか? 」

 続いてそう言ってしまってからすぐ、

 武井はそれが失言であったことに気が付く。

 ――じゃあお母さんは家の中に?
 
 脳裏に浮かんだ言葉が声になる寸前、

 薫が突然火がついたように泣き出したのだ。

 今のところ追って来ていないようでも、

 今、この瞬間姿を現すかも知れない。 

 この状況で大声を出すなんてことは、

 捕まえて欲しいと叫び散らしているのとおんなじだ。

 武井は懸命にそんな恐れを声にするが、薫は泣き止むどころか、

 このまま屋敷に戻りたいなどと言い出した。

 それからは、何を言っても戻りたいの一点張りで、

 終いには我慢も限界を超え、

 彼はそれまで抑え込んでいたものを爆発させてしまうのだった。

「いい加減にしてくれ! さっきあんただって見ただろう! ヘリが一発でド
 カンだぞ! 相手は戦争に使う武器を持ってるんだ! 戻るなんて狂気の沙
 汰なんだ! それでも戻るってのか!? どうしてもそうしたい!? 俺は
 ゴメンだ! 冗談じゃない! とっととひとりで行ってくれ! 」

 武井がそう怒鳴った途端、薫の動きがピタッと止まる。
 
 目を見開き、驚きと悲しみが入り交じったその瞳に、

 見る見る怒りの炎が燃え広がる。
 
 そして、さらに何かを言い掛ける武井に向かって、
 
 あらん限りの大声で叫び始めるのだった。
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