第8章 収束 - 別荘〜撤収

文字数 903文字

別荘〜撤収


「後は、今夜ご主人が現れたら、みんながこの部屋にいるように見せかける。
 そしてこのボタンでロックを外してからスイッチオン、それでドッカン! 
 で、おしまいと……」
 
 そんな声に中村愛は、一瞬「あれっ」といった顔を見せた。

 それでもすぐに笑顔に戻り、

「でも、もったいないですよね、この別荘まだまだ全然新しいのに……」

「そうだよな、今度は本当に大げさだよ。ヘリや別荘燃やさなくたって、いく
 らでもやれただろうになあ」
 
 愛と小男の谷川康行が話す会話を、優子が妙に真剣な面持ちで聞いている。

 それは、武井が別荘敷地に入り込み、

 今まさに立ち上がって大声を上げようかという頃......、

 曲がりくねった道を嫌って、谷川は林の中を真っすぐ進み、

 泥だらけで別荘に到着してすぐのことだった。 

 麻衣に言われて、車椅子の武井良子を連れ出しに現れ、

「奥さん、出る時ちょっと段差ありますから、俺、車椅子押すの代わります
 よ」
 
 優子に向けそう告げて、彼は本当に優しそうな笑顔を見せていた。

 そして、手にしていたリモコンをズボンのポケットにねじ込んだ時、

 今度は優子が明るい声で言ってくる。

「それ、危ないからわたしが持っててあげる。お義母さんを芝生に下ろしてく
 ださったら、すぐにお返ししますから……」
 
 何かの拍子に、ロックが外れてドカン! 

 なんてことだってあるかも知れない。

 そう言いたげな優子へ、谷川は言われるがままにリモコンを手渡す。

 その後すぐに武井が現れ、彼女は人知れず、

 なぜか義母と共にリビングへと消えた。


                *


「もう、今さら何を言っても仕方がない……きっと彼女は、元からこんなラス
 トを考えていたのかも知れないし……」
 
 さあ、撤収だ! 

 泣きながら謝り続ける谷川の肩を叩き、

 岡島が最後の一言だけ、あらん限りの大声を上げた。
 
 それからすべて片が付くまで、恐らく30分と経ってはいない。

 岡島の掛け声の後はまるで映画の早回しのように、

 次々と目の前のものが消え去っていった。
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