第6章 反撃 - 別荘(2) 

文字数 946文字

                別荘(2)



「社長……ですか? 」

 そう言って、美咲のマンション前に立ち、

 汚いものでも見るような目を向けた……、

 ――秘書課の女が、どうしてだ!? 

 ――何のために、幽霊のふりなんぞ……?
 
 名前は分からなかったが、それは確かに、出社するよう言いにきた女。

 そして間違いなく、空中に浮かんでいた幽霊でもあった。

 さらに会社の裏で、堂々たる乗車拒否を見せたタクシー運転手や、

 その場に現れた酔っぱらいの3人組までが、

 まるで友達同士のように同じ空間で笑いころげている。

 それ以外にも、

 パーティー会場で名刺交換をした覚えのある者や、

 スナックにいた客やらなんやら……。

 ――あいつまでが……揃いも揃ってグルだってことか!?

 なんと、1万円を貸してくれた若い警察官までが、

 180度その姿を変えてそこにいた。

 武井がさらにその奥へ視線を向けると、

 そこには、やはり2つの知った顔があった。

 そのうちの片方を見た途端、

 徐々に涌き上がりつつあった激しい感情が、一瞬にして小さく萎んでいく。

 1人は経理部長だった富田で、

 かなり酔っているらしく、真っ赤な顔をして女に話し掛けている。

 もう一方はまさにその隣にいる女で、

 ダンガリーシャツの上に白っぽい前開きのベストを着込み、

 下もぴったりとしたジーンズにブーツで、

 頭にウエスタンハットでも被れば、

 まるでカウボーイのような出で立ちだった。

 それは見事に、武井の目にしたことのない姿。

 しかしそれでも、まるで化粧っ気のない顔ではあったが……、

 ――美咲……おまえ、生きてたのか……?

 紛れもなくそれは、山瀬美咲に違いなかった。

 そう確信した瞬間、震える激情が消え失せ、

 彼は滲み出るような安堵感に包まれる。

 しかしながら、それもほんの一時のことだった。

 ――嘘っぱちだったのか……やっぱり、おまえも……?

 改めて、そんな衝撃を受ける武井の視線の先で、

 美咲がポケットから煙草を取り出し、美味そうに煙を吐き出している。

 彼の知っている美咲は煙草など吸わず、

 まして煙を鼻から吐き出すような女ではなかった。

 すべては、演技だったのだ。

 そんな彼女の一挙一動が、

 ――馬鹿な男……。

 そう告げているように、思えてならない。

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